演じる男

ひとりごはん

第1話

「ねぇどんな人がタイプですか?」

「気がきく娘がいい。こういう時もさ、よそってくれないとね」

「うわぁ亭主関白だぁ。私ムリ~」

「私たち全員ダメじゃん。アハハ。でもそれってあざとくない?演技してるよね」

 私は適当に相づちを打ちながら、誰もがそうではないだろうか、と思った。いま喋った女も例外なく、いまの姿が他者に見せたい顔というだけのこと。ときには無意識に仮面を被る。

「一宮さんは?」

「俺は一緒にいて楽というか、素の自分でいたいんだよね。だから落ち着いた人がいい。実は裏で遊んでるとかは困るけどね」私は微笑みながら答える。

「わかる。頑張りすぎちゃったら、長続きしないもんね」

 しかし、誰より演じているのは私だ。他の男のメンバーほど、性行為へ意欲的というわけでもないのに、このコンパに参加した。性欲はあるが、このプロセスは費用対効果が悪すぎると思っている。それでも参加したのは大学の友人には彼女、もしくは遊ぶ相手を欲していると認識されているからだ。


 いつの間にか席替えが行われ、私の隣にはかすみという女が座っていた。

「映画が趣味なんだ」

「うん、すごい役者の演技とか観るとね、たまに引き込まれそうになる。その感覚が欲しいんだ」

「え~、私もすごい映画観たいかも?」

「映画って全てが演出、偽りしかない、それで一つの作品世界を作っている。そんな映画をみんな観たがって、感動したりするんだ。人は本物なんか求めちゃいない。社交辞令が秩序を維持しているみたいに、人間はそう進化して、獲得したんだ。演技というものを」

「難しくてよくわかんなぁい」

 私の方へ身体を寄せる。彼女の口からはアルコールの匂いがした。匂いに閉口した私はハイボールを流し込んだ。

「ごめんね、俺だいぶ酔ってるから」

 女はグラスを触って濡れた手を、スカートで拭った。

「実はこう見えて大人しいタイプなんだよ。見た目で遊んでるとか言われるけど、経験も全然ないんだから」

「気をつけた方がいい」

「え?」

「あ、いや…もったいないなと思って」慌てて言い繕う。

 仮面の使い方は気をつけなければならない。偽るうちにいずれ、本当の自分を失くしてしまう。そうなってからでは遅い。私のように。

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