第136話
「俺さ……」
「はい」
神崎が真っ直ぐと俺の目を見ていた。 もう言っていいよな? ここまで言われたんだ、黙っているのは逆に傷付けていたのかもしれない。
「あ! ちょっと待って下さい」
「え?」
「柳瀬さんをジッと見つめていたら目が乾燥してしまいました、コンタクトは外しちゃいましょう」
俺を見ていると目が乾くってか!? 真面目な話しようとしてるのに。 はぁー、眼鏡眼鏡とあたふたしやがって、シリアスだった雰囲気ぶち壊しだぞ。
「これでよしと…… 大変失礼しました。 さぁどうぞ!」
「あ、ああ……」
なんか出鼻を挫かれたのでそんな感じではなくなったけど気を取り直そう、だがその時玄関がまた開く音がした、そして何人か入ってくる気配も……
「あれ? 麻里と彩奈も帰ってきたのでしょうか?」
「いや、そんなんじゃなさそうだぞ?」
そしてすぐさま、俺の部屋のドアが開いた。 スーツ姿の連中? これってもしかして神崎の家の?
「や、山崎さん!?」
「お嬢様、失礼します」
「え? え!? 何をするんですか?」
その山崎と呼ばれた男はヒョイっと神崎を持ち上げて肩に担いだ。
「こ、こんな格好…… 降ろして下さい!」
ジタバタと暴れる神崎に物ともせず山崎は俺に近付いて来た。
「我々と御同行願えるかな?」
「はぁ!? 何故柳瀬さんを? 何を言ってるんですか? というか降ろして下さい!」
「嫌って言っても無理矢理連れてくんだろ?」
「抵抗するのはあまりお勧めしない」
力ずくってわけか、神崎も居るし大人しく従うしかないか。
「そんなッ…… 父の差し金ですか?」
「…………」
「答えて下さい!」
「神崎、もう行くしかないみたいだ」
「どうしてこんな事に……」
外に出ると車が2台停まってあった、俺と神崎は別々に乗せられた。
後部座席の真ん中に乗せられ両脇には男2人、逃げさせないようにしてるようだけどどっちにしたって逃げられねぇよ。 なんせ腕を後ろに縛られて目隠しもされて耳もヘッドホンで塞がれてんだからな! 完璧に拉致じゃねぇか!
この感じだと俺神崎と引き離されて拷問でもされるのか? てか先輩もこいつらに?
この手口を見るともうそうとしか思えねぇ、俺が言っても何も答えちゃくれねぇだろうしこいつらに言ったって何も解決はしないと思うけど。
それに今どこ走ってんだ? 目も耳も塞がれてると方向感覚おかしくなるな。 大体1時間くらい走ったか? 帰りとかどうしよう? それより五体満足で帰れるんだろうか…… 先輩の事も気になるし。
それからしばらくして車が停まった。 目隠しとヘッドホンを外され、車から連れ出されるとどこかの岸壁だった、デカい倉庫もあった。
あの倉庫で拷問されて最後には海にポイされたりして……
2人からガッチリと両脇を掴まれてその倉庫に入って行くと倉庫なのに中は空っぽ、それに薄暗かった。 椅子が何席か分置いてありそこへ近付いて行くとあまり見たくない神崎の父さんが居た。
「やぁ。 暫くぶりだね柳瀬君」
「あんたかよ……」
「柳瀬さん!」
横から神崎の声が聞こえて俺の元へとやって来た。 そして俺の縛られている有り様を見て神崎は顔が青くなった。
「お父様柳瀬さんになんて事を……」
「神崎…… なんでここに居るんだ? てっきり別行動だと思ってた」
「キッチリとカタを着けようと思ってね。 私はね、柳瀬君の言う通りお前の事を尊重してしばらく静観してあげておいたのだよ? なのに反省する態度すら見せないで二流大学に入ろうとする愚行を正してやるのは親として当然だろう?」
「協力はしないくせに強制はするんだな?」
「柳瀬君は何か勘違いをしているね? 私が莉亜の事を大切に思ってはいないと感じているようだけどその逆だよ? 大切に思うからこそ私は莉亜にあれこれ言っているんだ」
「その割には自分の望み通りにいかない神崎にえらく冷たくしてたじゃないか?」
「飴と鞭は必要だよ? 結果を出さなければ世に出ればそんな扱いだって受ける事になる、早いうちからそれを身をもって知っておいた方がいいだろう? だから他人の家の事には口を出さないでもらいたいな、君には制裁が足りてなかったか?」
「制裁…… ? お父様、何を言ってるんですか?」
「ああ。 柳瀬君は今社会的制裁を科しているんだ、お前を誑かした報いとしてね、彼を働けないようにした」
「働けない? え? じゃあ柳瀬さんは!?」
「無職の無価値な人間だよ。 まぁ働いていても彼は社会的には無価値な人間だったが」
「え…… ?」
俺に振り向いた神崎がどうして黙ってたのという目でこっちを見たので目を逸らしてしまった。
「本当ですか?! 柳瀬さん」
「…… ああ、黙っててごめん。 お前がせっかくやりたい事見つけたのに俺が足枷になってしまいそうで言えなかった」
「そんな…… 柳瀬さんを蔑ろにして私だけが自分のやりたい事をしてそれで私が喜ぶと思ったんですか!?」
「だよな、そんなの俺の思い上がりだったよ。 結局こうなっちゃったもんな」
「ああ、それとそうだ。 柳瀬君の元居た会社の人物の事で相当肝を冷やしていただろう? それはこちらで処理をしておいたから安心したまえ」
処理した? こいつ何言ってんだ?
「やっぱお前らだったのかよ! 先輩に何をしたんだよ!?」
「先輩って…… 乙川さんですか? お父様は乙川さんにも何かしたのですか!?」
「おやおや、柳瀬君が巻き込んだんじゃないか? こちらの事を嗅ぎ回っていたからね、まぁ一般人が嗅ぎ回ろうがどうという事はないが君には効くと思ったんだよ」
「そんな事で…… そんな事で先輩を巻き込みやがって」
「やり過ぎです! たかが私の事で柳瀬さんと乙川さんを巻き込んで。 お父様は私の事などよりも本当の事を柳瀬さんに指摘されてそれが許せなくて私怨で仕返ししているようにしか見えません! あなたはとても恥ずかしい人です、少しばかり人より偉いからとこんな事に力を使って…… きゃッ!!」
言い終わる前に神崎の父さんは神崎をぶっていた。
「ん?」
「ッ!」
神崎はぶたれた表紙に神崎の父さんの足元に落ちた眼鏡を取ろうとしたが一瞬早く取られてしまった。
「安物だな、私が買い与えた物はどうした?」
「返して下さい!」
取り返そうとした時神崎の父さんはまた眼鏡を足元に落とす。 それを拾おうとした神崎の手が届く前に眼鏡をグシャリと足で踏み潰した。
「あ……」
「おっと、手と足が滑ってしまったな」
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