時を止めた女

ツヨシ

第1話

もうすぐあの人との結婚式だ。


待ち遠しい。


まるで夢のようだ。


私、必ずいい妻になります。



橋谷が夕食を食べているときに、妻が話があると言って来た。


話とはやはり隣に住んでいる女性のことだった。


人のことを調べて回るのは趣味ではないが、私も気にならないわけではない。


何とかすることに決めた。



安達が次の患者を待っていると、連絡が入った。


長年の旧友の橋谷からだ。


「で、その女の人を調べて欲しいというわけか?」


「そうだ。私たち夫婦が住みだしてからすぐに引っ越してきた。一人で。彼女はたまにしか外出しないのであう機会は少ないのだが、いつも幸せに満ち足りた表情をしているんだ。しかもあんなに大きな家に一人で住んでいる。そして何よりも大事なことは、彼女が越して来てから十年が経つが、その見た目が全くと言っていいほど変わらないんだ。気味が悪いほどに。妻は半ば本気で、人間じゃないんじゃないかと言っている」


「それでわたしになんとかその秘密を、彼女の素性を調べて欲しいと」


「そうなんだ。名のある精神科医である君なら、なんとかなるんじゃないかと思ってね」


「彼女が私のクリニックに来れば、どうにかできると思うんだが」


「うーん、それは」


「営業で優秀な成績を上げている君なら、それくらい可能じゃないのか。口先三寸で」


「わかった。やってみよう」


話はそこで終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る