これは文明崩壊後と崩壊前の世界を行き来しながら文明復興をさせていくスプラッターチェーンソーパンク物語
@yuyuyu3
第1話アザゼルの日常
不意打ちを受けたせいで、ごっそりと首の肉を食いちぎられたが、痛みはさっぱり感じない。
アザゼルはアドレナリンとコルチゾールの放出量が半端なく多い。
そのせいで、痛覚神経がマヒしてしまっている。
おまけに頭の配線も何本か切れている。
唸るエンジン、響く振動、そして弾けるソウルシャウトっ!
高速回転するソーチェンのカッターが、金髪角刈り双頭ゾンビの側頭骨を髪の毛ごと抉り取った。
そのまま振り抜く。
潰れた肉と砕けた骨に混ざって飛び散った中脳と小脳が、すり潰れてチェーンソーにこびりつく。
それでもカッターの回転は鈍らない。
ビチャビチャ、湿った音。
「ヒャハハァッッ!!!!!!!」
頬に付着した黒ずんだ血糊を舐めとると、アザゼルは獣じみた奇声を上げながらゾンビどもに襲いかかった。
右側にいたタンクトップ姿の四本腕ゾンビの脇腹にチェーンソーを突き刺し、胃袋と十二指腸を切り刻む。
シェイクしまくった瓶コーラよろしく景気良く噴出する血。
鉄錆めいた血と臓物の臭気が鼻腔粘膜を刺激した。
脳みそからドーパミンがドバドバ出るせいで、ソーチェンの回転数が激しさを増していく。
急激に高まるトルク、唸り上げるチェーンソー、ビブラートする脳髄、熱く脈打つ心臓。
下腹部が熱くなる。ハートがひどく滾り、疼く。
真っ赤に染まる視界。
思春期特有のリビドー、それは甘くて切ないストロベリーパフェのような……燃え上がる原初の闘争本能っ!
耳障りな騒音を上げる両腕のアタッチメントチェーンソーを滅茶苦茶に振り回し、アザゼルは雄叫びを発しながら暴れ狂った。
幼児の必殺技、グルグルパンチのチェーンソーバージョン、食らうととっても痛いっ!
「オラッ、飛びやがれっ」
横にいたドレッドヘアの複眼六個ゾンビを靴底で蹴り飛ばし、壁に叩きつけてやる。
湿った音とともに爆ぜ割れる肉片とゾンビ汁。
腐敗し、柔らかくなったゾンビの皮膚が、その衝撃にベロリと剥がれ、赤茶色に染まった筋肉繊維を露出させた。
コンクリートの壁に腐ったトマトよろしく、ベチャッとへばりついたドレッドヘア。
オブジェの出来上がりだ。少々出来が悪いが。
飛沫上げるゾンビの生温かい血肉汁が、アザゼルの顔面と胸を赤く黒く塗り上げる。
まるで赤いペンキバケツでも浴びせられたように。
マトモな神経の持ち主ならば、この血みどろ惨劇スプラッターショーに嫌悪感と嘔吐感を催すだろうが、
生憎とアザゼルは、そんな人並みの神経や感性などという高尚な感覚を持ち合わせているような輩ではない。
「俺を襲って食おうとするゾンビどもは逆に俺がぶっ殺して食ってやるぜェっ!」
唸りながら腕を伸ばして掴みかかろうとする、革ジャンを着たスキンヘッド五本足ゾンビの両腕をアザゼルが切断する。
すると、吹き飛んだ片方の腕が、ラジカセに落下した。
その時、最初の奇跡が起こった。
ゾンビの指が旧時代から掘り起こしたラジカセのスイッチを押したのだ。
その骨董品とも言えるラジカセから流れてきたのは、メガデスの名曲<シーウルフ>だった。
奇跡再び。
転がったスキンヘッドの片腕に、アザゼルは思わず親愛の眼差しを向けた。
ゾンビ化する前ならば、良い友達になれたかもしれなかったからだ。
アザゼルはそのまま身体を回転させると、スキンヘッドのド頭を薙ぎ払って真っ二つにした。
気分はクールだぜっ!
隣にいた一般通過ゾンビを袈裟斬りにする。
肩甲骨から胸骨までばっさりだ。
「あんた、蜘蛛肉は好きか?」
土気色の肌をしたレザーのタイトスカートを履いたパンク蛇女ゾンビに声をかけるアザゼル。
だが、女ゾンビは何も答えず、ただ、飢えた野良犬のように唸りあげるだけだ。
顔色一つ変えずにアザゼルはチェーンソーを振り払うと、女ゾンビの胴体を横向きに切り裂く。
白い腸が女ゾンビの二つに別れた胴体から溢れ出す。
血と肉片が泥みたいにまとわりついてくる感触──そんなもん、アザゼルは一々気にしない。
気にしてなんざいられない。
戦え、殺せ、そして食って強くなれ。
この弱肉強食の世界で生き延びたければ、精一杯あがきつづけるしかない。
そう、飛び散る鮮血は生きている証だっ!
つまり、ゾンビは生き物だっ!
辺りに立ち込める汚物の臭気。
ゾンビどもの腸内に溜まっていた内容物が、裂けた傷口からこぼれたせいだ。
アザゼルには嗅ぎなれた匂いだった。
内臓の臭気ってどんな匂いだと聞かれたら、アザゼルは迷わず答えるだろう。
そいつは糞と小便の匂いだと。
上半身だけを引きずりながらこちらに向かってくる女ゾンビの頭をアザゼルが踵で踏み潰す。
頭蓋骨の砕ける乾いた感触、どうやらきちんとプレスできたようだ。
「さてと、あともう一息ってとこか?」
放棄された基地内の巨大倉庫をぐるりと見渡すと、残ったゾンビどもの始末に取り掛かる。
辺りに血肉汁の雨を飛び散らかせるゾンビどもが奏でるハードロック。
ゾンビの裂けた血管から吹き出した粘っこい体液が、アザゼルの身体中にへばりつく。
砕けた頭蓋骨から溢れる脳漿、大腸の切れ端、どいつもこいつも血みどろだ。
スプラッターパーティーだっ!
最後まで生き残ったやつがパーティーの主役だっ!
飛びかかってきた相手の動きに合わせて、バックステップでかわす。
そのまま鼻にピアスをした強酸ゲロ放射型肥満ゾンビの下顎にチェーンソーを滑り込ませ、アザゼルは前頭骨まで瞬時に斬り上げた。
灰白質に覆われた大脳皮質が、回転するソーチェンの衝撃にぶちまけられる。
皮膚も脂肪も筋肉も骨も全部まとめてミンチにしていくアザゼル。
後ろに居た茶髪下半身触手ゾンビの顔面目掛け、後頭部を勢いよく降ってヘッドバンギングアタックを食らわせる。
強烈な一撃だ。
顔面が砕け潰れた茶髪の眼窩から、二つの眼球が飛び出した。
それが神経繊維と一緒に垂れ下がって、頬のあたりでぶらついた。
(あー……この前拾ったアメリカンクラッカーって玩具みてえだな)
眼球を垂れ下げた茶髪ゾンビを見ながら、アザゼルはそんな感想を浮かべた。
毒爪を突き立てようとするエラ張ったゴスロリオカマゾンビの鳩尾にチェーンソーを突き刺し、前後に激しくスラスト。
ヌラヌラした胃液とゲロと血液のミックスジュースが飛び跳ねた。
そうしている内にまた湧いてくるゾンビの群れ、群れ、群れ。
身長十五メートルに達するジャイアントゾンビ、複数の手足をつけたウニゾンビ、爆薬を抱えたダイナマイトゾンビ、
マシンガンを乱射するテロリストゾンビ、プロテクターを装着し、ロケットランチャーをぶっ放してくるソルジャーゾンビ、
スコップを振り回すグラサン六尺褌ゾンビ……ああ、たまらねえぜ。
チェーンソーだけでは、少しばかり手間取りそうだ。
両腕のアタッチメントをチェーンソーからガトリングガンに切り替え、アザゼルが残りのゾンビどもを一掃する。
回転する銃身からばらまかれる弾丸が、次々にゾンビどもを木っ端微塵にした。
再びハートがヒートアップし、ジンジンしてくる。
「こいつはサイコーにクールだぜェっ!!」
叫びながら、アザゼルがゾンビどもを皆殺しにする。
食い千切られた首筋の傷も血を浴びたせいか、すっかり再生して塞がっていた。
ゾンビどもを全て始末し終えると、アザゼルが両腕のアタッチメントを日常用のノーマルタイプに交換する。
それから次は、ゾンビの血やら目玉やら肉片やら脳みそをかき集め始めた。
「そういえば腹減ったな。丁度いいや、こんだけありゃ肉食い放題だぜっ、ラッキーっ」
僅かにマスクをずらし、ゾンビ肉の切れ端を摘まむと、口の中に放り込むアザゼル。
そのまま美味そうにクチャクチャと、音を鳴らして咀嚼すると、アザゼルはごくりと飲み込んだ。
「そういえば俺、ここに何しに来たんだっけ?」
アザゼルはバカだ。
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