18日目 納期

 彼曰く、信頼を積み上げるには時間がかかるけれど。


 ***


 最近個人での創作活動のほかにグループでの活動に参加させてもらっている。

 新しい試み、まだ慣れないことが多い。

 初めての仕事はマニュアルがなく、規定もざっくばらんで数回の修正が必要だった。

 結局納期とされていた日から数日後に決定稿になった。


 正直悔しかった。

 プロットをもとに自由に想像を膨らませてくださいと言われたらそりゃ自由に書きますわな。


 でもあくまでこれはグループでの創作活動。

 私の日記のように気を紛らわせるための趣味の延長線上のことじゃない。


 明確なターゲットがいて、どう感じさせたいとか、楽しませたいのかうるっとさせたいのか。ハッキリとした目的がある。

 自分たちの活動を世に広めるため、名を上げるための仕事なのだ。

 総意にそぐわないものが上がってきたら修正が重ねられるのは当然のこと。

 仕事柄そうしたやり取りは星の数ほど見てきた。


 たしかに元ネタを全く見ずにどんな工程で進んでいくかも詳しく聞かなったし好き勝手に想像を伸ばした。納期も守れなかった。

 そのどれもに責任はついて回る。

 だって書いたのは私なのだから。


 小説家であれ、文筆家であれ、何かの想いを込めた作品を世に出す人間なら、評価について回る責任を自覚しなければならない。それくらいは知っている。

 吐き出した言葉は相手が求めているものにあっているのか、考えなければならないこともある。

 知ってはいた、でも自覚はしていなかった。


 仕事だけじゃない、教育や感想でも同じことは言える。

 ぽっと出た言葉がどんな刃物になるか、考えたことがあるだろうか。

 普段SNSの投稿を流し見して、いいねや高評価を押しはするけれど、コメントやリプを返すことはしない。

 ただの一般人、余人に紛れて好き勝手に発言できて、咎められることもない自由な人


 自分だけはその責任からは遠い存在だと思っていた。

 そうではなかったのだ。


 個人の作品にもいい評価も悪い評価も等しくやってくる。

 相手に見られて、見留められて、初めて相手の思考に私と言う存在を主張することができる。

 そこから生まれるのは信頼か反抗かのいずれかだと思う。

 どちらが来てもいいように、創作者は心構えていなければならない。

 グループならなおさらだ、個々の行いの結果が全体に影響するのは特性だ。


 期待されるか、アンチを生むか。

 外野に評価される前に仲間内で喧嘩していては元も子もない。

 まずやるべきことは、新しい仲間からの信頼を勝ち得ることなのだ。


 その点に関しては納得している。

 自身が社会になじみづらい性格をしているのは自覚しているから、首肯するしかない。


 でも一つ不満を上げさせてもらうのなら――。


 仕事を依頼する前にマニュアルや提出方式があるなら、それをしっかり説明してほしかったな~。

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