12日目 帰省期間(1日目)
彼曰く、こんなに変わるものなんだなぁ。
***
久しぶりすぎる実家までの道のり。
2つある最寄り駅のうちの一方でローカル線を降りる。真っ赤で派手な車両は、残念ながら私はあまり好きじゃない。というか嫌いだ。浪人時代に下を向きながら通った苦い思い出があるから。
正直見たくないなぁと思っていた車両から目をそらして改札に向かうと、その先は壁でおおわれていた。
ちょっと踏ん張って押せばずれてしまいそうな、ハリボテの壁。と言っても、穴ぼこだから向こう側が丸見えなのだけど。
そこには高校時代に使っていたころの最寄り駅の面影は何一つ残っていなかった。改札から左手に見えたはずのバス乗り場。入り組んでいて、一般車はどこに止まればいいのかわからない狭いロータリー。品ぞろえがそこそこよかったファミリーマート。ガラス張りで外の視線が痛いミスド。行ったこともないけど、多分汚いんだろうなと想像できる雑居ビル。
いろんなものを雑多に、ごちゃ混ぜにしたような田舎感のある何とも言えない風情がよかったのだけど。その類は一切に無くなって、まっさらなコンクリートの更地になっていた。
変わらないと思っていたけど、ちゃんと田舎も変わっていくんだなぁ。
吹けば飛ぶような寂しさだけ心の片隅を湿らせていくけれど、私の心にはそこまで沁みなかったらしい。特に足を止めることなく改札を抜け、壁沿いに進んでいく。
頭を出さないチンアナゴのケースを素通りしていくような気分だった。
線路沿いの道に下ると、ずっしりと重く冷たい空気が目の前にそびえている。昔はなかったコンクリートの塊が、でかでかと線路にまたがり、二段、三段と重なっている。そういえば高校の終わりごろ、駅の構造改革だとか、ホーム拡張だとかで大工事をするとかしないとか叫んでいたっけ。電車を使うことなんてほとんどなかったからあまり気にしていなかったけど。
いざ目にしてみると、高く積まれたそれは子供のころに遊んだレゴブロックみたいで、工事途中の場所がぽっかり空いているのが、他の玩具に気を取られて放っておかれているように見えて、なんだかおもしろかった。
そういえば、駅を越えて反対側の線路には大きな線路があって、「開かずの踏切」なんて呼ばれていたっけ。6ホームを擁する駅からは、頻繁に電車が出入りするもんだから、遮断機が上がった瞬間に音が鳴って、車が通れるのはせいぜい2台ずつ。マリオカートのドッスンよりも質が悪いトラップだった。
そのあたりも解消するための高架橋建設だろうけど、中途半端な状態を見せられては子供のお遊びにしか見えない。せめて次に帰るときは、完成していてほしいなと思う。
駅から実家までの道のりは15分強。車で送ってもらえばいいのに、のツッコミは今回は受け付けない。私がすでにツッコんでいるから。
曰く、「わんこがあなたと初対面だから」。
実の子供よりもわんこを優先するとは・・・。親って言うのは変わってしまうものなんだなぁとしみじみと思いながら、LINEを返したものだ。
「なら段取りちゃんとしておいて。散歩コースとか知らないし。家に着く時間は言うから合わせてよね」
我ながら嫌味な言い方だったと思う。母から「汗汗」スタンプが送られてきて、ちょっとだけ胸がちくりと痛んだ。まだ実家についてもいないのに、すでに東京に戻りたくなっていた。
変わっていないところもあれば、変わっているところもある。随分と故郷を離れてしまったんだなと痛感する。
歩いているうちに見かける建物に、面影が残っているかを探してしまう。そのまま残っているものもあったけれど、駅も、周囲の景色も、家族構成も、私とは関係のないところで変わってしまった。
「なんか、知らない場所に来てしまったみたいだなぁ」
変化の大きさに驚いてばかりで、ちゃんと休むことができるのかどうか。まあ、多分休めるんじゃないかなと思いながら、母との合流地点に向かった。
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