25日目 OLの食事
彼曰く、これからはOLご飯食べるから。
***
納期迫る会社。
私の班にもだんだんと鬼気迫る形相の社員が増えてきた。
そこまで鬼気迫らんでも、納期は逃げないよ、いつか来る。
「でもコロナだなんだで伸びに伸びた結果、いまだに終わらない仕事があるのも事実」
「それを言うない、悲しくなるけん」
実際、納期が納期として機能しない時期がしばらくあった。
特に密室空間での音声収録。私の会社だけでなく、同じような収録を必要とする仕事は日本にはいろいろとあふれているようで、ドミノ倒しの要領で次から次へと私たちの収録は延期された。そこに私たち平社員が入り込む余地はないのだ、残念なことに。
それ以外にも、社員に感染者が出た場合は直ちに在宅勤務義務。期間が明けても基本的に出社不要の場合はテレワークかシフト制での勤務を推奨されていた。
「テレワークで何ができるのですかねぇ」
「何もできないわ。現場で生きている私たちから現場を取り上げたら何もできない」
「間違いない。在宅勤務で得たものって言ったら何だろうね」
「Netflix、Amazonプライムの面白さ」
「だんだん同じものしか見なくなるんだよね」
「馬鹿の一つ覚えだよ、もうちょっと有用な生き方を覚えたらよかったのに」
味気ない自炊に早々に飽きて、楽に食事にありつけるコンビニ弁当やスーパー惣菜に頼る毎日がやってきた。
そのころの癖がいまだに抜けずに、即物的な金銭感覚でいた私は、まさに今自己経済の不景気にあえいでしまっている。
コンビニ弁当の野菜炒め。想像と違う味に困惑してか、箸を伸ばす手が止まる。
なんというか、不味い。
「おかげで生きるのにも必死になってしまった、忙しいときこそ手早く食べられるものが欲しいのに。そうじゃないときに使ったお金を返してほしい」
「そう思うなら自炊の癖をつけるんだね、私みたいに」
「そういえば最近弁当持ってきてるね。ちょっと前は私みたいにすぐ外食してたくせに、よくそんな余裕あるね」
「余裕は探すんじゃない、作るもんだよ。自分の時間を見直して、料理できる時間が作れるように会社から帰る時間を計算するようにしたの。おかげで自分のための時間を作れるようになってきて、ちょっと気分いいんだ」
「あなたは今まで鬼のように働いてたもんね、お疲れ様でございます」
「しっかり働かせてもらったので少しくらいは許してほしいわ。これからは自分のために時間を使える人間が生き残るんだよ。ご飯も一緒、どうせなら美味しいもの食べたいじゃん?」
「まったくもって同感」
「外食なら美味しいもの簡単に食べられるけどね、食費は出来るだけかさまないようにしないと・・・とかいろいろ考えた結果の弁当だよ。これからはOLの食事を心がけるから、見てなよ~」
「いいな~、私も始めようかしら。もうすぐ仕事ひと段落するし」
冬の終わりの昼下がり。
暖房の温度が一つ下がるごとに春の訪れと仕事の終結を感じる休みの一幕。
同僚のお手軽弁当を見ながら、私も弁当作るようにしよ、とひそかに決意したのであった。
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