14日目 雪景色
彼曰く、寒さ増す街、故郷を想う。
***
先日雪が降って以来、都心もすっかり寒さが増した気がする。
着込む服もセーターが多くなって、洗濯物を回すタイミングを逸してしまいそうになる。
家の風通しもよくないし、設備も整っていない私の家では下手にセーターを洗濯すると干す場所に困ってしまうのだ。
平干しするのに床は使えないし、かといって持っているセーターすべてを一気に干せるほどの余分なスペースもない。
アホなことに、セーター以外の冬用の服は2点だけ。
買えばいいのに買う気も起きない。
それだけセーターが好きだということなのだけど、好きならせめて洗濯のことも考えて買いなさいよ。
未来の私が怒っているぞ。
とはいえ、セーターが好きなのにも理由がありまして。
母親がセーターとかネックウォーマーとかニット帽を編んでくれて、それがすごく気に入っていたのです。
もともと看護師で、3児の母。
朝から働いて昼に戻り、夜ご飯の準備と家事をこなして、また夜まで仕事に出る。
私が中学生に上がるくらいからそんな生活をしていたものだから、糸いじりをする時間も気力もないはずでした。
それでも授業参観には出てくれていたし、剣道の試合にもなるべく時間を作って応援に来てくれました。
「食べすぎたら動けないよ」って言っているのに、「でも食べないと動けないでしょ?」と言って2段弁当をくるんで私に持たせてくる強引さ。
強い親だからこそなんだろうなと思った記憶があります。
苦労して生きてきた人だからこそ、自分で生き抜くための術をなるべく自分で持っておく大切さが身に染みているんでしょう。
妹が進学で迷っていた時に、迷わず「あんたは美容師になりな、勉強できないんだから」と言っていたのを聞いて、「やっぱ強いんだよな~」と思いました。
妹が一番できの悪い子でしたからね。
でも母に似て家の中で一番喋る子でした。
感情が爆発的に出てしまう子で、私の受験期には頭を悩ませましたが、今ではあの喧騒も懐かしく感じます。
対して弟はほとんど口を利かない子。
中学からその癖は抜けていないらしく、どうも自己表現力に欠ける一面のある子でした。
それでも一度は社会に出て、今では実家の農業を手伝っているらしいです。
パソコンやゲームには一段と夢中になっていたのでその道に出てもいいんじゃないかと言ったことがありましたが、「俺はゲームはやる専だから」と鼻であしらわれました。
そんなに喋るのが面倒かね、もう少しコミュニケーション取りなよ。
家族間コミュニケーションで言うと、父はその点が苦手だったように思います。
そもそも家にいる時間が短い人でした。
朝一番に家を出て仕事に向かい、誰よりも遅く帰ってくる。
真面目に働く大黒柱で、年上の母には尻に敷かれているところもありましたが、しっかり自分の意見は持っている。
母同様に私の進路を心配していましたが、基本的には見守るスタイルなのでそこまで強く反対もされませんでした。
「お前のやりたいようにしな、自分の人生の責任は自分にしか取れないんだから」
上京する前に二人で出かけた時、運転席でふとこぼれた優しく、けれど厳しい言葉は今も耳に残っています。
ちょくちょく通知の鳴る家族LINEには、最近の実家の様子の写真が送られてきます。
つい最近も雪が降ったらしく、「農作業きつすぎ!寒すぎて死にそう!」と言っていました。
犬2匹連れて元気に走っているので多分元気ですね。
しばらく帰っていない一番大きな理由の「面倒くさい」が高じてもう2年帰省していません。
帰っても何もすることはありませんが、帰れば家族に会うことは出来ます。
まだ仕事が忙しくて心の余裕がないのも本音ですが、いったん今の仕事が終わったら帰省したいですね。
実家の自分の部屋から見た雪景色が今も脳裏に焼き付いている。
帰るころには雪も融けた春ごろだろうけど、私の記憶は融けない。
綺麗なままの実家に帰ることができるように、今日も元気に生きていこう。
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