24日目 告白

彼曰く、私は告げる。


 ***


光が、淡いね。

今まさに君が感じているだろう不安を暗示しているかのように。

当然だ、君には特別関係のない日に呼び出されて、町にたった一つのモミの木の下に私たち2人だけ立っているのだから。

誰もいなくなった深い夜、頭上の星明りがやけに明るい。

それに、モミの木にはイルミネーションコードがてっぺんまで巻き付いて、ほとんど灯りの消えた町で淡く輝いているね。

もうすぐこの明かりも、日付が変われば消えてしまう。


・・・たとえ不安でも、来てくれてとてもうれしかった。

来てくれないかと思っていたから。

君の不安よりも、僕の恐怖の方が大きいと思う。

何に対する恐怖かははっきりと言えないけれど、とにかく怖かったんだ。

ひとつ、ふたつと、店が閉まったり寝静まった家の灯りが消えるたびに、まるで希望が無くなっていくようだった。

円形の広場までの道、薄いフットライトに照らされる買ったばかりの革靴でゆっくり歩きながら、ずっとおびえていた。

呼び出したはいいけれど、この後急に雨が降ってくるんじゃないかとか。

親に逆に呼び出されるんじゃないかとか。

隕石が降ってきてあたり一帯が吹き飛ぶんじゃないかとか。

・・・いや、どれも逃げるための言い訳にしかならないか。

出来ることなら逃げだしたかった。

それくらい、僕はどうしようもなく臆病になってた。

中心部に直接つながる一番大きな通りを向いて、モミの木の囲いに持たれている間は、今年で間違いなく一番長い時間だった。

大変なことも楽しかったことも全部遠くに行って、期待とも不安ともいえないふわふわした感情が引き伸ばされていく。

周りにいた人の声が徐々に収まり、代わりにドキドキという心臓の音が耳に響いた。

今までで一番うるさかった。

これ以上ないほどに強く目をつぶって、何も感じないように君のことを考える。

でも君の顔を思い浮かべるたびに、また心臓の音が強くなる。

また不安になって時計を見る。

ずいぶん長くここにいるはずなのに、長い針は30度も進んでいない。

悪魔のささやきを6回繰り返した、一生分の時間を繰り返したような気がする。

薄目を開けるたびに、もう帰ってもいいだろうと言われている気がしてつらかった。


だから7回目、大通りの奥から歩いてくる人影がちらと見えたとき、すごくうれしかった。

何度も見た歩き姿、お気に入りだと言っていたコート、一緒にいるといつも履いているブーツ、鎖骨あたりまでゆるく伸ばした髪。

シルエットでも十分わかるくらいに、君がやってくるのを何度もイメージしたからかもしれない。

・・・こう言うと気持ち悪いかもしれないね。

でも本当に跳び上がるくらい、心が軽くなったんだ。

一歩一歩、揺れるスカートが君の歩みを現実にしているみたいだった。

一歩一歩、コツコツと近づいてくる靴音が君の存在を証明していた。

空気の薄くなったこの場所に、柔らかな風が君の香りを連れて吹いてきたとき、私の目の前が急に明るくなった気がしたんだ。

そして思った、逃げずにいてよかったと。


・・・そろそろイルミネーションが消えてしまう。

星は見えるけれど、しばらくは暗い時間になってしまうだろう、目が慣れないからね。

でもきっと大丈夫だ、だって君がいるんだから。

君がいると思うだけで、わかるだけで、私の気持ちは明るくなるんだ。

きっと君もそうだろう?


この明るさを消したくない。

明るい君のいない、暗い時間に戻りたくない。

町が完全に暗くなってしまう前に、君に伝えたいことがあるんだ。


だから―――


もう一歩だけ、そっちに行ってもいいかな?

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