14日目 組織①

彼曰く、私たち日本人に足りないもの、それは自主性。


 ***


昨日から一夜。

何となく自分がアップデートされた気がする。

頭を悩ませながら寝に入っていた先週末よりも、朝起きた時に健やかな爽快感がある。

単純なもので、何かが変わったときには心も晴れやかになる。

自分の思考の単純さに助けられるな、と思うと同時に、ここまで週末ずっと思い悩むのもどうかと思う。

一つのことに気を取られてやりたいことができなくなっていたら元も子もないというのに。

今更なことだけど、週末の反省点は読み始めた小説が全然進まなかったこと。

そもそも、麻薬戦争という重たい内容の『テスカトリポカ』をごちゃごちゃと頭が混濁しているときに読もうというのもどうかと思う。


火曜日は私の班の定例会議だ。

各人の仕事にそれぞれ設けられている納期に向けてスケジュールをどう立てているか、複数の仕事にかかわる取引先の作業タイミングをどうするかを確認、修正していく場としてある。

同時に、先週後半に起きた難題や個人では解決の難しい事案、他班にかかわるようなことや、現在の仕事量の分配、ピークがいつ来るかなど、職場環境にかかわることも認識してどうフォローするかを話し合う場でもある。


先週末の悪い空気、少なくとも私の周りは多少取り払えたけれど、相変わらず全体としては微妙な空気。

相変わらず出社できない後輩。

悪循環に落ちかけている現状を打破するのにはこの場で話される議題としていの一番に挙がりそうだ。

ぞろぞろとメンバーが会議室に移動していく。

それぞれ何を考えているかはわからないけれど、間違いなく部屋の中に充満した空気は少し重い。

重いし、灰がかっている。

いい空気とは言えない。


普段の業務を邪魔してはいけないというのもあり、まずはいつも通りの話し合い。

各人のスケジュール上問題になっているところはどこかの確認、誰に発破をかけて納期に間に合わせるか。

一通りの確認と修正が終わったところで、リーダーがおもむろに口を開く。

「他に何もなければ、私から一ついいですか?」


現状の空気が悪いこと、後輩が休んでいることを認知していて手伝うことをしない人がいたという事実、組織的に統率が取りづらく全体が悪い方向に進んでいる現状。

その認識が全員にあるかの確認がなされるも、やはり全員が押し黙る。

「とりあえず後輩の仕事は私が持っていますが、正直キャパオ-バーなんですよね」


 これは、もしかしたら私のことを言われているのかもしれない・・・。


個人的には手を差し伸べられるタイミングで声をかけるようにはしていたけれど、もしかしたら配慮の足りない点があったかもしれない。

昨日しっかりと認知したばかりの私の課題をこうもはっきり言われるとは。

想像していなかったわけではないが、大勢の前で言われるとやはり委縮してしまう。


少しの沈黙があった後で、後輩や先輩がそれぞれ発言する。

「ムービーチェックのリテイク回し終わって少し余裕出来ると思います」

「リーダーに仕事が集中しすぎているから、余裕のある人はやれる事があるか声をかけて協力するようにしていこう」

「そもそもの問題として、上からの情報が全然下りてこないから現状が把握できるようにしてほしい」

「それはもう以前からのこの班の課題ですけどね、でも聞ける空気を作るのも必要ですね」


勇気ある発言をおのおのがする中で、私は何も言わなかった。

いや、言えなかったのか。


すべてが私に当てはまっていると思ったから、改善すべきは私の態度であるだろうと。

そう思い当たった瞬間、この場が公開処刑場に思えた。

もう、私には何も言えないだろうと。

押し黙った私は何も言うことなく、定例会議は終わった。


・・・煮え切らない感情を残して。

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