16日目 『麦本三歩の好きなもの』
彼曰く、のほほん日常短編集。
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『麦本三歩の好きなもの』住野よる
『キミスイ』作者の短編集。
ちょっと前に第2章が出てからそういえば第1章買ったのに全然読んでないなと思い出した。
どこにやったかなと探していると、床に近い本置きスペースに黄色い背表紙が目立っていた。
こんなとこに置いてたんかと、過去の自分の行いも忘れてうっすら埃の積もった本を手に取ると、今更読み始めようと思ったことを申し訳なく思った。
申し訳ない、心の中で言っておく。
私は積み本をしがち。
新刊や読みたい本が出た時は「読むかー」という気概と気迫に満ち溢れて、帰り道にいそいそとカバンから取り出して読み始めるくらいには気合を入れて読み始めるのだけど、まとまった時間を取れるのが休日だけになってしまった社会人生活では買っても読めずに置かれてしまうことが多い。
あのころの気概はどこへやら、すっかり冷めきった本への愛を、すっかり冷めたコーヒーを飲んでごまかして「ごめん、今日も読めそうにない」と謝りながら出勤する。
そんな毎日。
読む時間を作れないのには、もちろん仕事が忙しいことや、突発的な仕事が発生しやすいためにまとまった時間を取れないことが理由としてあるのだけど、根本的な問題としては私が買う本が大体長編小説だということ。
新書や哲学書、ホビー本の類をほとんど読まない私にとっての本はもっぱら小説作品のことをさす。
なので誰かと読書会を開いても勉強会にならずに自分の好きな小説を読もうの会になってしまう。
この時周りが小説を読んでいるかは関係ない。
自分の世界に浸れるのならば私はそれで満足なので。
ところで長編小説を読むにはそれなりの時間がかかる。
私が一日をフルに使って読める本の数は2冊から3冊。
近頃だと『追憶の烏』の後に『楽園の烏』の読み直しをした、ページ数はざっと600ページほど。
眠気も何もなくて、1冊のページ数が少なければ4冊くらいはたぶん行ける。
大好きなご飯の時間や寝る時間を削った場合なので、後にも先にもその機会が訪れることはなさそうなのだけど、多分それくらいはいけると思う。
私は私のポテンシャルを信じている。
というか信じたい。
長編小説の醍醐味といえばやはりその世界観に浸れること。
文字を通して伝わってくる世界、見たこともない景色の音、風の匂い、生き物の声、街の息、文化の味。
疑似的に五感を使って享受する楽しみに勝るものはないと思う。
頭の先からつま先の先っちょまで、浸れるだけ浸ることができれば、あとは字面を追いかけていくだけで簡単に現実から離れることができる。
目の前の世界から逃げ出したい人に是非オススメしたいやり方だ。
でも問題は世界観に浸るにはある程度時間が必要なこともあること。
初めてのシリーズや、日本になじみのない文化を取り入れた世界観だと、理屈の理解までに時間がかかる。
頭の中のシナプスをつなげたり離したりしてやっと理解できたと感じた頃には出勤しなければならない時間なのだ。
いくら仕事が好きでも自分の好きなことの時間を奪われるのはいい気分がしない。
おのれ仕事、許すまじ。
そんな時に気付いたのが短編集の存在。
短編集は短くても独特の世界観を持っていたり、逆に入りやすい登場人物のエッセイ的なものであれば、ふとしたタイミングで読み始めることができる。
その上ほかの短編への影響が少なく、途中でほかのやるべきことに割り込まれてもあとくされなく本から離れることもできるのだ。
なんという素晴らしき世界、なんというざっくばらんな関係。
プラトニックな関係も過ぎればただの他人、なんて言われたことがあるけどまさにそんな感じ。
さっくり、すっきり読むことができる。
今回の『麦本三歩の好きなもの』はどちらかといえばもう少し長めの短編集。
一人の主人公の、なんてことない普通の日常を描いた短編集で、若干のつながりがあるものの、基本的には一話完結。
一篇の長さも20~30ページと重くない、チーズ蒸しパンよりも軽い。
手軽で、気軽な本の世界。
あまり触れてこなかった世界だけに新鮮だけど、今後はこういうものも読むことが増えるかもしれない。
長編小説には相変わらず手が伸びにくいけど、ほかの本の相手をしていたと言えば少しは許してくれるかもしれないしね。
安心して、ちゃんと読むから、も少し待って、ごめんけど。
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