12日目 反省

彼曰く、一喜一憂して、また一喜すれば負けてない。


 ***


後輩に試練の時がやってきた。


組織構造というものは厄介なもので、自分が上に立った瞬間に新しく入ってきた下の人間を教える人間が必要になってくる。

いわゆる教育係というやつ。

別に先輩なることは望んでいないのに、組織や上司はそうなってくれと言ってくる。

まったく、嫌な構造だよこの世界、この社会は。


そう思うだけで口にしないのは、私の心の弱さなのかもしれない。

しょせん私も社会に属する人間。

評価されるということに対しては敏感なのだ。


会社での働き、仕事の成果、職場環境への働きかけ、人間関係。

様々な要因をもとに、会社員の給料は刻まれていく。

もらえる額に上限があるのはなんだか納得いかないけど、下限があるのはいいことだと思う。

どんなに頑張っても報われない人間にも支払われる対価が保障されているのはありがたい。

何か失敗しても、生きる尊厳だけは守られるのだから。

生きているだけで、十分なのだ。

少し前報道が立て続いていたアフガン情勢を思えば、今の私は十分恵まれている。


あちらの人々は生きるためならば何でもする。

まさに泥水を啜る想いで、毎日をおびえながら暮らしているだろう。

世界は平等だと誰かが言った。

平等だというのなら、恵まれた私たちも、それくらいの覚悟をもって生きる瞬間が必要なのだろう。


恵まれているからと言って怒られることがないわけではない。

私たちはいつも人の感情の渦に巻き込まれながら生きている。

上手くいけば褒められ、失敗すれば怒られ、貶され、罵倒される。

人間の感情というのは、常にマイナスに対しての耐性がついていない。

嫌だと思うことがあると、その一瞬に感情を委ねてすべてを吐き出し始める。

一度流れ出すと空になるまで止まらない、そこに相手の状態は関係ない。

慣れているのか、初めてなのか、そんなこともどうでもいい。

成功は成功、失敗は失敗。

物事に貴賎なし、というやつだ。

受け入れなければならない事実というのは、ふとした瞬間にやってくる。


それはもう運命的なまでに、等しく人間の前に姿を見せる。

避けることもできるけれど、すべてを避ける人間が一体どれだけいるのだろう。

それはきっと、神様しかわからないだろう。


そのすべてに一喜一憂するのが、感情を持った生物の運命でもある。

そのたびにへこんでいては生きていけない、泥水の中で学ぶことをやめたら成長はない。

反省して反省して、最後に自分が一喜することができれば、この失敗は無駄ではないことになる。

すべてを経験にして生かしたいのであれば、たった1回にへこたれていてはいけない。


生きている間、同じことはずっと起きるんだから。

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