7日目 ベンチ

彼曰く、公園のベンチで過ごす昼下がり。


 ***


昼休憩にはちょっと散歩がしたくなる。

時間がなくても頭に血液が通っていないとよくないので。

ずっと座っていると頭が回らないし、仕事の首も回らない。

何から手を付けたらいいかわからなくなると、すべての手が止まってしまう。

下手したらその日一日を無為に過ごしてしまう可能性すらある。


そういうときは外に出る。

新鮮な空気、心地いい風、温かい太陽の光。

自然を感じることで身も心も癒される。


風に揺れる木の葉が足元に影を落としている。

きらびやかで、とろけるよう。

昼に訪れた暗い影が、きれいなモザイク絵画になって足元を照らす。

ところどころに転がっている小石がモザイク模様に新しい色合いを出している、気がしなくもない。

芸術家を気取っているわけではないけど、なんとなく美術館に来たような気になってしまう。


頭を起こして空を仰げば、朝から覆っていた雲はどこかに消え、程よい青空に変わっていた。

息を吸う、ゆっくり溜めて、そして吐く。

ふかふかのベッドのような温かい空気が体の中に入ってくる。

つまらない仕事で冷めきっていた体に熱がこもり始める。


ボーっと、焦点の合わない目で空の一点を眺める。

…焦点が合っていないなら一点ではないか?

どうでもいい思考が空を流れる雲のようによぎり、そして消える。

そのまま考えていると、頭の中身が持っていかれそうな忘失感。


 なんだかな~


気もそぞろなうちに、仕事脳に切り替えておきたいけど、そこまで気が回るかな。

自分のことなのに他人事に思えてしまう、どうでもよさが勝っている。

元気がないわけでもないけど、元気いっぱいってわけでもない。


少し離れたところの砂場で、子供たちが数人遊んでいる。

すぐそばでママさんたちがベンチで談笑している。

バケツに詰められた砂がひっくり返されて、ホールケーキ大の台形が出来上がる。

少しずつ削られて城になっていく過程で、何が不満だったのか、一人の子が横穴を開通させた。

ママさんたちは「ああ、もうケンカしないよ」と薄い反応を見せるだけ。

そして何事もなかったかのように、子供たちは砂場に水を入れて泥団子づくりを始めた。


 平和だな~


見るともなしに子供たちの様子を見ているとだんだんと面倒くさいこともどうでもよくなってくる。

どうでもよくなると不思議なもので、仕事の優先順位が見えてくるものだ。

現状ピンチなもの、早いところ片付けておきたいもの、後追いでもなんとかなるもの、誰かの力を借りないと解決が難しいもの。

本質が見えれば対処も見えてくる。

先ほどまで中天にあった太陽がわずかに傾いていた。

たぶん、30分くらいは経ったかもしれない。


 仕事するか~


仕事はたいていこんな風に進む。

ベンチでの過ごし方は人それぞれだね。

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