22日目 『元彼の遺言状』

彼曰く、こんな彼女は…ちょっと嫌かなぁ。


 ***


『元彼の遺言状』新川帆立


社用で車を飛ばしていたころ。

高速道路っていうのはとても暇な場所で、ひたすらに同じ速度で代わり映えのない道を走っていくだけ。

運転者講習の時に一番最初に言われたのが「何があっても寝てはいけない」だったんですが、その強敵にこんな危険な場所で出会うことになるとはだれが予想したでしょうか。

子供のころから裕福だったわけではないので、車旅行の経験は薄いです。

でも車に乗ってどこかに行くときに、ずっと私が起きていた記憶というと片手の指で足ります。

気づいたら4つくらい県をまたいでいるなんてザラ。

起きるたびに脳内地図がバグを起こしたのが懐かしいです。


そんなわたしも免許を取り、高速道路を飛ばして子供たちを連れ出していた父の凄さを感じているわけですが。

思えばガムをかんだり、ラジオや音楽を聴いたりして工夫していたのはこういう理由があったからですね。

結局同じ結論に至るのは、家族だからか、それとも同じ人間だからか。


走らせていたころのお気に入りは『JUMP UP MELODIES TOP 20』。

鈴木おさむとTHE RAMPAGEの陣がパーソナリティを務める音楽ラジオで、毎回ゲストが来るんですが、作家、お笑い芸人などアーティスト以外も呼ばれることが。

その日もいつものように聞いていたところ、ゲストとして登場したのが新川帆立さん。

自身で弁護士資格も持つ彼女が書き上げた『元彼の遺言状』は、第19回『このミステリーがすごい!』大賞に選ばれました。


いつもの感じの、よくあるミステリーかな、と思った私が興味を持ったのは、主人公が女性弁護士で金の亡者というハイブランドな性格の持ち主だったこと。

高飛車で、いかにも成功者然とした剣持麗子は、現代に生きる「強い女性」を代弁しているように感じました。

そんな麗子が、元彼・森川栄治の訃報ののちに聞かされた遺言状による遺産相続について。

大手製薬会社・森川製薬の御曹司であった彼の遺言には「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」という奇妙なものだったのです。

遺産目当てで麗子を頼ってきた知人の代理人弁護士として、また元カノとして、遺産相続人を決める選考会に参加することになった麗子。

果たして遺産は誰の手に―――。


謎の配置は正統派、読んでいる間の不快感のないテンポの良さが気に入りました。

コミカルなキャラクターがいることで、陰鬱な空気がそれほど重く感じないのが魅力だと思います。

企業弁護士らしく、専門的な知識についてもわかりやすくなるような言葉選びをしてくれているので、ストーリーや相関関係も想像しやすかったです。

強い女性像とは反対に、強く生きようとする男性の姿もあったので、同性としては救いがあるかなとも。

そしてやっぱりミステリーは面白いなと感じました。

久しぶりに戻ってきた活字熱、このまま冷めないようにして積み本の山を崩していきたいです。

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