21日目 『烏百花 白百合の章』

彼曰く、はい、とってもおいしゅうございましたよ。


 ***


『烏百花 白百合の章』阿部智里


私が愛してやまないシリーズの一つ、<八咫烏>シリーズ最新刊。

『追憶の烏』が週明け月曜日に満を持して発売です。


待ち望んでいました、待ち焦がれていました。

何よりも楽しみにしていた本の一つ。

これまでの1年間、このために働き、このために生活苦を我慢してきたようなものです。

私の心と脳裏を埋めたシリーズの最新刊の報を得た瞬間に心が沸き立ちました。

正直、いまだに沸き立っています。


と言いながら、今日のタイトルの『烏百花』は未読だったので、ちゃっちゃと読みました。

シリーズものを好きと言っておきながら、前作未履修なのは不敬罪ですから。

救済を求めるように活字欲がふつふつと盛り上がってきました。

最近何かを読むとなると漫画ばかりだったのでちょうどよかったです。

脚本練習に励むためにもそろそろ活字に慣れないといけないと思っていたところなので。


さて、今回の短編集。

書き下ろし含め全八篇。

いずれも本編筋の隅を埋める、いやさらに彩る素敵なお話、きらびやかな宮廷生活に混じる陰鬱な影ものぞかせたお話です。

その中からいくつか感想でも。

※ネタバレ注意


・かれのおとない

猿との闘いののち、風巻郷を訪れた雪哉と茂丸の妹・みよしの一篇。

勁草院時代、明留、千早とともに、丸に連れられてきたときの雪哉とは全く変わってしまった彼。

かつて恋慕を寄せていた相手の顔から優しさが消え、冷たく感情を失ったような彼の謝罪を、胸の詰まるような想いで受けるみよしが何を思うのか。

『楽園の烏』を読んでいる分、雪哉のこれまでの苦労がうかがえる話の一端になっていると感じました。


・おにびさく

職能人の集まる西領にすむ職人・登喜司。

山内では一般的な明かりの役割である鬼火灯籠を作成する養父のもとで学んでいた。

貴族の「お抱え」職人でもある厳しい父のもと、なかなか上がらない技術と褒められることのない現状にストレスを感じていたものの、その父が亡くなり、仕事がなくなってしまう。

そんな彼の耳に、皇后がを求めているとの知らせが入る。

果たして彼は職人としての腕を皇后に認めてもらう作品を作ることはできるのか。

山内の文化レベルの高さを感じました。


・はるのとこやみ

東家の学士となるべく修行中の身の双子・伶と倫の話。

竜笛を持つ彼らは、東本家の下人として梅花の宴に参加し、のちに登殿する浮雲の君と音楽でつながる。

倫の初夏の幸せなときは唐突に終わり、伶に訪れる真実を知る待ち望んだ時。

夜の暗闇よりも昏い彼女の瞳が見せるのは、虚空に散った竜笛と長琴の合奏よりも虚しく残酷な現実―――。

シリーズ第一弾『烏にひとえは似合わない』を見た人なら納得しかない短編がこんなところにあったとは…。

湊かなえが好きな人はぜひ読んでほしいですね。


・きんかんをにる

奈月彦と娘が金柑を煮る、仲睦まじい回。

大人しい話かと思えばその起こりはもっと悪意に満ちたものでした。

実に宮中らしい、奈月彦からしたら嫌になる話。

その現実にへこたれない娘の強い姿勢がとても心強く、内親王である彼女の健やかな成長を思わず願っていました。

そして再び登場、われらが雪哉くん。

若宮護衛として日々心魂を傾ける彼は、確かに山内の平穏無事のために動いてきたのでしょう。

普段平静とした彼が時折見せる優しげなまなざしは何故か簡単に浮かびます。

いいやつなんだよな~。

そんな彼がいかにして『楽園の烏』のようになってしまったのか。


次巻『追憶の烏』では山内で起こっていた真実が明かされるようです。

もう今から発売日に飛んでいきたいですね。

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