24日目 人は見た目100%で判断されがち

彼曰く、心の骨格は別にあるんだよ。


 ***


自分が認識している自分。

人から見た自分。


その違いが人との距離に関わってくる。

その距離が社会との距離感。

離れれば離れるほど自分が惨めに見えてくる。


そんな世界に僕は生まれた。

親のすねをかじれるだけ齧って、齧りつくして、遂に見限られて家を追い出されてからも、祖母の恩情に甘えてぬくぬくと暮らしている。


見た目デブで前髪禿げかけの中年男性。

遠目で見れば30代後半の冴えない人だけど実際は20代後半。

10年分も違う見られ方をされてしまう。

何が間違って理想と現実が乖離してしまったのか。

原因が何なのかさっぱり分からない。

この前コンビニで買ったアイスがあまりにも期待外れのまずさで、道の途中で袋と一緒に捨てたからなのかな。

そんなの日常茶飯事なのに。


いいじゃん別に、だっておいしくないんだもの。

おいしくなく生まれたのが悪いんだよ。

おいしければ僕みたいな人間にも食べてもらえるのに、むしろ買ってくれたことに感謝してほしいくらいだ。

なけなしの貴重なお金を払ってやったんだから、せめて僕の前でくらいおいしくなれよ。


「親の前でくらい、自分の言葉で喋りなさいよ・・・」


靴ひもを結び終えた僕の背中に届いた母の言葉。

あれ以来何度も靴を脱ぎ捨てた土間には戻っていない。


それでもいい、僕には別の生き方がある。

母が否定した世界、僕を肯定してくれる世界。


VR。

それが僕の人生の舞台だ。


VR世界での僕は可愛い女の子。

髪の毛はボリューミーにカールしたセミロング。

ポップな曲調に合うようなピンク色のメイドっぽいアイドル衣装。

人前に出るようのキャピキャピとした空気、自分の可愛さを生かしたしつこくない化粧。

女らしい動き、仕草。

自分の思う全ての可愛いを詰めて彩った"私"。

ただの点の集合体じゃない、私が動けば動いてくれる。

私の思う可愛い動きで踊ってくれる。

私が動かしているから当然なんだけど。


みんなの知らない私の仕草、みんなが思い描かない私の姿。

社会から離れてる私にとって居心地がいいのは電子の世界。

理想で満たされた創造の世界。

私の生きる世界はきっとこの世界だ。


何でもかんでも制限されて、管理されて、抑圧されたあの玄関は、僕が行き来するには窮屈で、小さくて、古臭くて、通りたくないところだった。

そう思ってからずっと、VRの”私”が僕自身だった。


僕はかわいいのが好きだし、化粧もするし、女の子らしい動きもできるし、踊ることだってできる。

もしかしたらしゃべり方も変わっていたかもしれない、母が嫌ったのはそこなのだろうか。

でも僕はかわいくしゃべりたいし、女の子らしいことを話したい。

だって僕はかわいくありたいんだから。


人は見た目じゃない、心の在り方が僕を変えてくれる。

同じ生き方をしている人と話しているときの僕は、とても僕らしいんだから。


僕の心はこうして出来上がっているんだ。

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