19日目 焼肉・・・?
彼曰く、これが東京の焼肉屋ですか! 違う、ただのチェーン店だ。
***
後輩を連れて焼肉を食べに行ったのが先週の話。
もうすでに焼肉を食べに行きたい欲に包まれている。
連れて行ったのは先週の話。
後輩に軽くマッサージをしてもらったそのお礼で。
マッサージのお礼で焼肉というのもなかなか太っ腹なこと。
それ以外にもいろいろと世話をしていた後輩だったし、1年ちゃんと勤続してくれている労いも込めて行った。
「どこ行くんすか?」
「今回は軽くしておくか、最近できたあのチェーン店でもいい?」
「全然いいっすよ、僕は何でもおいしく食べるんで」
弟キャラが板についている子の後輩、さすが先輩を立てる言葉を並べられる優秀。
もっと違う会社だったら別の活躍の仕方できてたろうに、なんて身もふたもないことを思いながら、新店舗に向けて歩いていく。
都内によくあるチェーン店だけど、お互いに初めて行くお店だった。
新店舗らしくきれいな内装だけど、焼肉屋らしくないなと思ったのは全体がオープンになっているからだと、日記を書きながら思った。
回転寿司でさえ回る機械のせいで狭く感じるのに、この焼肉店は天井からつるされているであろう排気パイプがなく、すぐ隣が別のグループの席だった。
通路を挟んだ向こう側のグループの様子も丸見え、まるでファミレスの店内のようだった。
チェーン店らしく自動操縦ロボットがいたのが驚きの1つだった。
「これが東京の焼肉屋ですか!」
「いや、そういうことだな、これが東京だわ」
興奮しながら自分たちのところにも来ないかな、なんて話しながらメニューを見る。
焼肉自体も久しぶりだったから、とりあえずたくさん肉を食べられればいいと思っての食べ放題コース。
3つあるコースの真ん中、妥当な選択だったと思う。
現在飲食店では酒類の提供が禁止されているから、昼飲みはかなわなかったけど、昼から焼肉と言うのはなかなかリッチなことをしている気がする。
とにかくばーっと注文して貪るように食べた。
タン、ハラミ、カルビ、ホルモン、米、米、キムチ。
食べ放題なんて何年ぶりだろうと思いながら食べ進めていく。
美味しくて米が進むっていうのはこういうことか、ようやく気付けた気がした。
時間いっぱい、最初に入れたタレがなくなるくらいには食べ進めた。
店を出る、開口一番。
「これは東京の焼肉屋じゃなかったな・・・」
「っすか?自分は美味しかったんでよかったっすけど」
後輩のフォローも届かない、それもそうだ。
私が食べたい肉がなかったんだから。
つまり私は焼肉屋に行ったんじゃない、焼肉チェーンレストランに行ったんだ。
私が行きたかったのは焼肉屋だ。
もっと煙にまみれて、意味の分からない名前を付けられた肉を頼んでゆっくりと咀嚼したかった。
タレなんて必要ないくらいに肉の味を堪能したかった。
肉は食えたが、肉を食えなかった今日、私は思った。
「この店は二度と来ねえ」
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