22日目 セカイ

彼曰く、これが私の生きる世界。


 ***


世界を変えてやる。


大層な夢を抱えて生まれた男は、理想に向けてまっすぐに進んでいった。


25年後、そんなものは理想でしかなかったと、現実を見て理想を捨てた男がそこにいた。


そんな書き出しで始まる物語があったとしたら、だいたいの人が「ああ、このお話はきっと最後には夢を取り戻して、夢実現に向けて悪戦苦闘して、ときどき周りと衝突しながら、人間関係に葛藤しつつも、着実に功績をあげていき、誰もが憧れる生活を手に入れるんだろうな」と思うかもしれない。

夢のない生活から逃れるために、夢のある生活を追い求めて、別世界の物語に耳を傾けるのだ。


そんな世界があればどれほどいいことか。

きっとそこは変える必要のない世界、誰にでも優しい理想郷。

多くの人が求める安寧の地平。

見知った人も、知らない人も、動物も植物も関係ない。

忘れものをしても、失敗をしても、成功した後に泥沼のいざこざが待ち構えていても。

すべてが楽しく、心を揺らし、満たされる感覚を等しく享受する。


どんな結果であれ、その人の望む形が少しでもあれば、そこはきっと理想郷だ。


現実は厳しい。

厳しいし乗り越えるのは難しい。

理想郷を追い求めたところで、より高い壁に阻まれるだけ。

世界を変えるなんて大それたことは、理想を持ち続けることのできる、その覚悟のある人間だけが口にしていい言葉なんだろうと、ふと思う。


キリストは宗教世界を変えた。

アレクサンドロス大王はギリシャ世界を変えた。

アインシュタインは物理学の世界を変えた。

福沢諭吉は日本の学問の世界を変えた。

ペレはサッカーの世界を変えた。

多くの技術者がもたらした産業革命は世界を変えた。

ヒカキンはYouTuberの世界を変えた。


”世界”と括るだけで、たいしたことのないものだと思えていたものが急激に大きな世界のものに感じる不思議。

遠い異国も孕んだ世界も、実家という名の身近な世界も、些細なことの積み重ねで大きく変わる。


自分の世界は何だろう?

周りの人間関係、仕事の責任、家族との距離感、友人の有無、プライベートの過ごし方、住んでいる家の環境、周囲の様子、ネット上の繋がり、趣味や好きなこと。

世界の括り方はいろいろあるし、それぞれが独立していて、組み合わせることもできる。

自分の世界は一つじゃない、考え方次第で様々な面を見せてくれる。


嫌いな世界を変えたいなら、好きな世界に没頭すればいい。

1つの世界を変えられないなら、別の世界に取り込めばいい。

自分の世界のバリエーションがないなら、他の人の世界を除けばいい。


些細なことがきっかけで、自分の世界は大きく変わっていく。


今日私は洗濯を3回も回した。

ちょっとためてしまっていたというのもあるけれど、その分さっぱりとさせることができた気がする。

気分も爽快、まるで今日の天気のように晴れ晴れとした気持ち。

仕事のストレスで目に疲れがたまっていたけれど、熱が収まって軽い感じ。

今日の仕事はうまくいく気がする。

小さな幸せ、見つけていこう。

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