14日目 ホワイトデー
彼曰く、気持ちを気持ちでお返しする日。
***
チョコレートにはチョコレート。
目には目を、っていうのは、イベントごとにも通じているらしい。
復讐の時にだけ使うのだと思っていた。
痛みには痛みを。
苦しみには苦しみを。
同じ強さで、同じ場所に。
歯には歯を、噛みつきたい相手には自分の力で噛みつく。
自分の欲しい相手には、自分と同じだけの想いがあってほしい。
いや、あってしかるべきだ。
そう思う。
私にも好きなものがある。
食べること、そう言い続けているし、これからも変わらない。
寝ること、好き嫌い以前に本能的なことだし、新しい日々を与えてくれる。
誰かと話すこと、自分以外の誰かを知ることは楽しいし、何より刺激がある。
私にとっての好きなものっていうのは、何か変化をもたらしてくれるもの。
自分にはない、生み出せない。
外の世界にしかない、自分とは違う別のもの。
自己完結と自己矛盾を繰り返して自己の定義を再編し続ける想像とは違う、
知覚して、認識して、理解して、初めて定義が生まれる現実の存在。
好きな人が、私にもいた。
きっとあの感情は、そういうことなんだと思う。
子供のときから過ごしてきた部屋は何も変わらないのに、
好きな人を招いたときだけ、部屋の明るさがぱっと華やぐような、
好きな人といるときだけ、時間の概念が舞い散って、
昔から続いていたような、錯覚。
ありえないことなのに、そっちの方が本当のことのような。
違うと頭では感じているのに、そうだとしか思えなくなる。
それはもう、とろけるようで、心が温かくなるようで。
白い光に包まれて、何もかもが祝福の声で満たされるような、
その人のことを考えると、まるで自分が自分でなくなるようで。
新しい自分を知っていくようで。
どうしようもなく、気持ち悪い。
妄想にしても質が悪い。
きっとこの感情はまだ実ることはないんだと思う。
自分の中でくすぶったまま、実ることも、花咲くことも。
黒く固まった蕾のまま、すぐそこの地面に落っこちていく。
分かっている。
この気持ちが、たぶん自分の本心だということを。
分かっているつもりだった。
この気持ちは、一度は諦めていた過去だったと。
贈り物をもらって、嬉しくない人はいない。
バレンタインで贈られたチョコレート。
私の気持ちも、単なるありがとうなんだと思っていた。
同じ気持ちを伝えるために、同じものを贈る。
ただそれだけのつもりだったのに。
「すごい、嬉しい。まさか貰えるとは思ってなかったから」
彼女は泣いていた。
泣かれるなんて思っていなかった。
きっとこの想いは、私の一方通行なんだと思っていたから。
そんなふうに泣かれたら、思ってしまう。
私の、僕の、俺の、この
持っていて悪いものじゃなかったと。
気持ち悪いものじゃないと、妄想なんかで終わるものじゃないと。
白い光で包まれるような、白くて聖なる素敵な日。
私の気持ちが現実を見る日。
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