21日目 吹きこぼれ

彼曰く、鍋って気づいたらすぐに吹き出してしまう、お笑いと同じね。


 ***


冬と言えば鍋。

ちょっと前にも同じようなこと言いました。

鍋が美味しい季節が冬なのは間違いないですけど、

いつ食べても美味しいのが鍋のいいところ。

たとえ部屋が寒くても、暖房使いすぎて暑い一歩手前でも、

熱すぎて猫舌なのを我慢してでも食べたい。

汗が出ても気になりません。

ふうふうするほど、美味しさへの期待が高まる感覚。

炊飯器でお米を炊いてるとき、出来上がりの音が鳴るのを待っているのと一緒。

出来上がるまでで言えば、吹きこぼれそうになる蓋の音を聞くこと。

吹きこぼれないように注意していても、火にかけるとすっかり忘れてしまうんです。

だいたい10~15分くらい火にかけっぱなしで、

その間別のことに夢中で鍋のことなんて頭から離れてますから。

楽しいことの前は別のことにかまけていたいんですよね。


でも火が自動で消えるなんて高性能なキッチンでもないので、

そのうち吹きこぼれてしまうのは仕方ない。

理想的なキッチンは簡単には手に入りません。

生活する中の1つの刺激と思っておけば大したことはない。

吹きこぼれを止めようとわたわたするの、嫌いじゃないし。

なんていうか、生きてるなって感覚になりますし。

それに楽しい、鍋を作るのは。

だって美味しいものだと分かってますから。

鍋が美味しくないことなんてないでしょう?

自分の好きな具を入れて、好きな時間煮込んで、

好きな味付けをして、好きなトッピングでいただく。

好きなものしかない宝箱みたいなものです。

長いこと置いておくと大切さがにじむように、

タイムカプセルとして残しておくと懐かしさがより深くなるように、

吹きこぼれるまで煮込めばいい味が馴染む。

まさに美味しさの宝石箱です。


お笑いと同じ。

しばらくは平坦な話が続くこともありますけど、

いったん吹っ切れるとそこからどんどん面白く感じる。

笑いが止まらなくなることなんてザラにあります。

私のツボが浅すぎるのもいけないかもしれませんが。

それに面白いと分かっているタレントのネタを聞いてても、

最初はあまり期待していないことが多いです。

お笑い番組も何かしながら見てますし。

でもちょっと気が向いて聞いてみるとちょうど面白ポイントだったりして。

思わぬ話が舞い込んでくるとそっちに注意が向いてしまう。

気づいたらそっちに夢中になる。

ネタの聞かせるべきポイントからそっちに夢中。

吹きこぼれから鍋を食べることしか考えてないのと同じ。

何かしてる間に別のことを気にするのはよくないですけど、

生きてる間は楽しいことを考える時間があってもいいじゃない。

それがお笑いでも、鍋でも、映画でもなんでもいい。

何かのきっかけで気分が変わることはあっていい。

面白い人生、生きていたいですから。

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