7日目 クール

彼曰く、お前がどこかで失敗するのを楽しみにしてる。


人の話を聞くことが多い。

人間だし、会社で人と話す機会もあるのだから当然だけど。

同じ部署の中で考えると、

たしかに私は自分から喋ることはそんなに多くない。

他の先輩や同期の話している内容を聞いていることが多い。

話を振られれば答えるし、

自分の意見を言うこともあるけれど、

自分から積極的に話すことが多いタイプではない自覚はある。


仕事をしているときは仕事の話しかしないし、

雑談も長時間することは少ない。

基本的に黙々と作業をすることが好きな性格だから、

雑談がうるさいときはイヤホンでシャットアウト。

社交的とは思われないのも仕方ないかもしれないけど、

生来のこれはなかなか治らない。

治そうとは思っているのだけど。


そんな私を外から見ると、

私はクールだと人は言う。


まあ、自覚はある。

出来る限り仕事はそつなくこなしていきたい。

派手で大変ないばらの道より、

確実性の高い堅実な橋を渡りたい。

ユーモアが大切というのも分かるけれど、

同じように分別とTPOを重視するべきだという意識は高いつもり。

職場の気質上、丁寧とは言えない言葉遣いになることもあるけど、

仕事の話をするときはそうではないようにしている。

何か面倒ごとが起きても慌てないように心がけているし、

なるべく自分で考えて動こうとしている。

今の仕事を始めるとき、

そして今の課長に最初の手ほどきを受けたときから、

変わることのない仕事への姿勢。

だから声を荒げることも少ないし、

あたふたしてその場で縮こまることも多くない。


そうした姿勢がクールと見えているなら、

それも私の一面かもしれない。

私にとっては自然体でのことでも、

外からみれば一つの才だという。


先輩曰く、同じ部署内では私はだいぶ大人びているそうな。

後輩たちからの評価も軒並みそうらしい。

人からの評価は基本的に自分の考えているものとは違う方向に行く。

でもそうした言葉、印象だけが独り歩きして、

知らない人にも私の話が広まっている。


でも私がクールと言うのは真実ではないと思う。

外から見たらそうだとしても、

私が普段どう考えているのかなんて、

どういう点がクールかなんて、

結局他人が決めつけているだけ。

一面しか見ていないから、薄い印象だけが飛んでいく。


だからこそ先輩は見たいらしい。

私が大きな失敗をするところを。

普段クールに見える私が、

どんな反応をしてくれるのか。


見世物じゃないんだけどな。

多分いつもと同じように対応するだろうけど、

周りが見ているより何も考えていないと思う。

そして実際何も考えていない。


自分の本性を知らないままに、

他人からのキャラ付けだけが濃くなっていく。

そのキャラに合わせるのも大変なんですよ?

まあ、やりますけど。

クールではない私が、クールぶって対応する。

そんな事態になるような失敗が来ないことを、

私は祈るのみ。

そう、クールに仕事をするために。

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