11日目 タスク

彼曰く、まずはこれからやって、次にこれをやって…。


1日の中での時間の使い方。

これは生活様式や仕事、学校でのカリキュラムなどによって、

個人差は大きく出るものだと思います。

私は高校生になっても、

今どき珍しく門限がありました。

部活もがっつりやっていたけれど、

必ず20時前までには帰るように言われていたものです。

晩御飯はみんなで食べようという、

親たちの意見によるものです。

今では会社を辞めて家業を継いだ父も、

未だに病院勤めを現役でこなす母も、

私が起きて準備をし始める頃には、

出勤の準備が終わっていました。

パンをかじりながら「ふぃってらっは~い」

ともごもごさせるのがお約束。

私たち兄弟たちも、

朝練があるときは早めに出たり、

特段急ぐ必要がないときはゆっくりしたりと、

自由度の高い朝の時間を過ごしていました。

だからこそ一家団欒の時間はほとんどなかったといっていいでしょう。

顔も知らぬ人がぎゅんぎゅんと改札を抜けていくのを、

ボーっと見ている駅員さんの気分です。

彼らはボーっとはしていないでしょうけれど。

通勤特別快速が乗り入れる駅のように、

慌ただしいリビングの光景でした。


そんなこともあり、いつか誰かが言い出した、

「1日の最後くらいは家族で揃いたいね」

という一言で、めでたく(?)門限制度の導入が可決されました。

詰まるところ、普段の活動の制限時間が定められたということです。

人間は制限を課されると窮屈に感じるものです。

それまで自由意思で行動できた活動が、

課題、タスクとして提示され、

それらの完遂を目標に定めて進める必要があるからです。


自由意志下での活動に期間はありません。

納期もないわけですから、本人の意思でいくらでも融通が利きます。

早く終わらせることも、いつまでもダラダラとやることも可能なのです。

一方で制限時間、つまり納期が決められるということは、

そうした自由が制限されるということです。

それぞれに設けられた納期を目指して、

何が何でもやらなければならないというプレッシャーが生まれます。

そして自発的な活動には積極的な人間でも、

このような外部からの圧力による活動には、

なぜか抵抗を試みようとするもので。

結果的に内部意識と外部意識の齟齬が発生し、

タスクに対する積極性が失われていく原因となるのです。

「やりたい」と思って始めた何でもないことが、

「やらなければならない」というプレッシャーに覆われ、

かつ「ここまでに」という限界値が作られる。

そのプレッシャーはたいていやる気を削いでいき、

いつしか「やりたくない」という不協和音を引き起こしかねません。

しかもできることが増え、

任される仕事が多くなると、

そうしたことは往々にして減らないのです。

終わればすぐに次のタスクが降ってくる。

納期が過ぎる前に次の納期が来て、

更なるプレッシャーに襲われるのです。


学生時代、特に受験期。

志望校に合格できるように、

朝から晩まで勉強漬け。

やるべきことと、それほどでもないことを見極めて、

合格までのルートに必要なことを自己分析し、

どのタスクからやるべきかを考える。

門限という、

破れば家庭の危機になる精神的プレッシャーを避けるため、

時間内に何をどれだけやるかを決めた日々。

門限から解放された今、

家庭内不和は起こりようもありません。

そもそも実家を出て一人暮らしですし。

しかし今度は働き方改革という国の方針。

これにより労働時間が制限されつつあります。

国民の生命を守るという点では大切な転換点ですが、

果たして制限時間を設けられることに耐えられる人間は、

日本にどれだけいるのでしょうか。

労働問題、年金問題、環境問題に昨今のコロナ情勢。

ただでさえタスクの多い現代社会を乗り切れるかは、

個々人の判断能力にかかっているといえるでしょう。


久しぶりに仕事に追われた1日を追えた帰り、

そんなことを考えながら、

帰宅後のタスクを思い浮かべていました。

どこまで行ってもタスクタスク。

これに勝つか負けるかは、きっと私の精神力次第。

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