9日目 波長

彼曰く、自分の先輩は波長が合わなくて難しいな。


人と話している間、何となく間の悪い状態になったりします。

この同僚は真面目なところでくだらないことばかり言うなぁ、とか。

この先輩は何だか人の悪口ばかり言うなぁ、とか。

この後輩は熱量が強すぎてついていけないなぁ、とか。

万人の姿かたちが一致していないように、

すべての人の波長が合うということはなかなかありません。

互いの熱量にはどうしても差が生まれるのです。

基本的には肌で感じることはあまりないこと。

それこそそのとき限り、一期一会の人であれば、

楽しそうに仕事をする人だな、

すごくやる気に満ちている人だな、と、

それなりの第一印象として捉えられるだけのことです。

しかしそれが毎日いるような人であれば、

「あ、この人はちょっと無理だな」と、

どこかで生理的嫌悪感にも似た、

一種の拒否反応を示すことになりうるのです。


拒否反応は案外明瞭に表れるもので、

周りの傍観者でしかない人たちでも、

敏感な人はすぐに察知します。

面と向かっている人間であればなおのこと、

相手の拒否反応ははっきりと見て取れるわけです。

それは様々な形で顕現します。

目を合わせると嫌そうな顔でそっぽを向いたり、

隣に座った時に体をさりげなく遠ざけたり、

会話に入ってこられると露骨に話題を変えたり、

もしくは会話を中断させたり、

すれ違う時には近くを通らないように離れたり、

今までは同じタイミングでの出退勤時間だったのに、

時差出勤でもなく違う時間になっていたり、

メールやLINEの返信が必ず、

「すみません、通知切ってまして…」とか、

「ごめんなさい、寝てました!」とか、

普段大音量で着信流れ取るやん、

20時に寝るとか健康過ぎん?、など、

突っ込みたくなることもあるくらいに、

目に見えるものだけでも様々な反応を見ることができます。

これだけあると逆に他に何があるのか、

色んな人の反応を見比べてみるのもいいような気もしますが、

そのまま波長を合わせることができなくて、

結果的に仕事に影響が出るようであれば元も子もありません。

どう思うかは個人次第ですが、

団体行動や協力体制を整えようとしているのであれば、

拒否反応を何とかする必要があります。


さてそんなことを宣う《のたまう》本日。

どうも波長の合わない私と後輩が座っています。

私と後輩の波長は、まあ合わないです。

後輩は新人ということもあり、

何事にも積極的で前のめりに頑張ろうとしている。

声も大きいし、私に良く仕事を求めてきます。

一方の私。

基本的に無口でクール、

仕事については必要のある時にだけ話し、

表情の変化もあまりない。

声も姿勢も適正で、過度に主張しすぎないところが玉に瑕。

どちらかといえば体育会系の後輩と、

どちらかといえば文化系の私。

性格も通ってきた道も真逆の2人の波長が合うなんてまずありません。

それこそ長年連れ添った親友くらいに知己の間柄でない限りは。

しかしながら後輩との波長は合わせなければなりません。

嫌悪感を示しているかどうかは…いったんさておきましょう。


さあどうしよう。

これからが大変です。

時期はちょうど仕事の切れ間。

急ぎで頼みたい仕事も少ないです。

何かは分からないけれど、とりあえず仕事を求める後輩と、

はっきりと突き放すことできないけど、かといって頼める物もない私。

ねじれの位置にある私たちは、

一度腰を据えて話す必要がありそうです。

ちょうど明日は何も無い。

話し合いは苦手ですし、

面と向かうのも苦手ですけど、

仕事の波長をつかむためには、

理解しておいてもらわなければ。

ここらで一丁、先輩らしいことをしておきましょうか。

とりあえずは先輩風を吹かせるための、

それらしい波長を一晩かけてつかむことにしましょう。

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