7日目 部屋

彼曰く、部屋は人が生きている空間だ、ただの箱じゃない。


他人と自分はどこか違う。

顔。髪。体格。性格。

なぜか違うと決まってる。

同じ人間なのに不思議だ。

同じ皮に覆われているのに。

中身の作りも大体同じなのに。

考えてることは同じでも。

理由が同じとも限らない。

終わらない議論を頭の中で繰り返し。

解決策が浮かばないまま議論が終わる。

現状を打破するには新しいことが必要だ。

反復事象に時間の進歩はない。

経験として身についたとしても。

舞台に上がるときがなければ。

身につけた技術に意味はなく。

過ぎた時間は空間に溶ける。

生まれて育って交差して。

同じ箱の中でごちゃ混ぜになる。

わたしが入ればわたし色。

あなたが入ればあなた色。

等しく用意された部屋のなか。

人が違えば中身も違う。

住人というレッテルで貼り付けられて。

棚に並べられた新書のように。

型と表紙の色が同じでも。

思考も趣向も信仰も違う。

思う未来も違うから。

部屋の中身も変わってくる。

友人と生活したいのならば、

お互いが使えて便利なものを。

恋人と生活したいのならば、

清潔感を出すために使い捨てのものを。

家族と生活したいのならば、

気兼ねなく自分の使うものを。

独りで生活したいのならば、

細く長く使えるものを。

無用の長物は邪魔なだけ。

配慮も遠慮もゴミ箱のなか。

箱の中で今日も思う。

箱の中身は何だろな。


自分と違う箱の中。

あの子の箱は少し大きい。

ベッドもテレビも机も椅子も。

同じ一人なのにちょっと大きい。

私はあの子を見ているけど。

あの子は私を見ていない。

私は聴診器を箱に当て。

漏れる音と光を見てる。

あの子は目の前で着飾って。

ひとりステージに立っている。

ここは電子の海の下。

星も見えない空の下。

箱を打ち破ることもなく。

箱の外とつながってる。

わたしとあの子はどこか違う。

同じ人間のはずなのに。

気付けば箱がつながって。

大きなビルになっている。

配信者という箱の中で。

今日も何かを歌っている。

それはとても美しくて。

月のように輝いていて。

私の心が脈打つように。

星の息吹を吐いている。

入り口も出口もおなじ。

そとだけ見ればおなじ箱。

色だけ見れば同じ家具。

なのにあの子の方が明るく見えて。

眩しくて目を細めるけれど。

反射するそれは憧れの心。

楽しさにあふれる星たちの歌。

見つめる魚は忙しく。

海の底から光に叫び。

箱から箱へと行き移る。

あの子の輝く箱の中。

あれくらいには輝きたい。

わたしの箱は汚いのかな。

ちょっと変えてみようかな。

掃除機かけて埃を吸って。

場所を移して眺めてみる。

気付けば知らない箱がある。

あれは誰が送ってくれたかな。

なんだか楽しい音が聞こえる。

わたしとあの子は違うけれど。

箱は同じくらい輝きたい。

わたしが生きてる箱の中。

ただの空き部屋と思われたくない。

この箱を開ければ何かが変わる?

未来のことは分からない。

分からないことは気になるから。

探して比べて見つめてみよう。

そして誰かがこう叫ぶのだ。

箱の中身は何だろな

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