ボスと戦った件

「これが,ボス」

今弘樹は荘厳な扉の前にいた。

「はい,。弘樹。こわいですね」

「ああ。どうしよう。俺,心配になってきたよ」

「私もです」

「相当厳しいな,この扉を潜り抜けるのは⋯⋯」


 そうなのである。弘樹はいまは龍だ。そして竜はそのサイズが総じてでかい。それは弘樹に当てはまらないはずもなく弘樹もでかい。高さは十メートルもある。そしてこのダンジョンは人間が,もしくは亜人が攻略することを想定されている。つまり,ボス部屋の扉は人間サイズなのである。


 ここまで弘樹は数々の苦戦を乗り越えてやってきた。さきほどシーの言うとおり弘樹は相当深層までやってきており今いるボスの階層までは目と鼻の先であった。ここまで来るのに一時間もかかっていない。そしてレベルも幾つか上がった。これは弘樹をやる気にさせるには十分な材料だった。だが,やはりボス部屋はこの迷宮の最大の難所であった。


「はぁあ,はぁあ。やっと潜り抜けたぞ」

弘樹が潜り抜けた先にはフェンリルと戦った時のような階層が広がっていた。

「扉くぐりお疲れ様です」

「こんな喚問を抜けた先にいるんだから,ボスはどんな存在だろう。きっと恐ろしく強いに違いない」

「いや,あんたの方がボスだよ」ボソッ

「ん? 何か言ったか」

「いいえ,何も」

「そうか」

弘樹たちがそんな会話をしていたとき,急に地面が揺れた。


「はっはっはっはっは。やっと挑戦者が現れたか。この三百年,挑戦者がいなくて退屈だったところだよ」

「誰だ」

そういうと奥から巨大な影が伸びてくる。

「誰だ,か。我はこの魔窟の主,誇り高き風竜王様の幹部が一竜,プルランである。皆の物ひれ伏せ。そして絶望するがよい」

「なあ,あいつ強いか。俺には圧が全く感じられないのだが」

「同感です。実力差は像とアリくらいしかちがわないのでさすがに鑑定は成功しないと思いま⋯⋯,成功しました」

「どうだ。やはり強いか」

「あの,確かに人間からしたら化け物ですが」

「やはり強いか。これは全力で行くしかない。胸を借りるつもりで行かせてもらう」

弘樹はそういうとMPを練り上げる。

「あの,マスター。大変申し上げにくいのですが,相手は,ざ」

「分かっているさ,俺があいつの前では雑魚なくらい。だけど,それでも俺はやる。たとえ負け確定だったとしても」

「分かりました。私,必要ない気もしますが全力でサポートします」

「おう,頼む」

「ふぁっふぁっふぁ。話は決まったかな。冥途に行く準備はできたかな。では始めるとしよ⋯⋯」

「先手必勝,灼熱の息吹。からの,獄炎。そして,炎神」

「マスター,過剰戦力な気が⋯⋯」

「やはりこれでも過少か」

「もういいです。好きなようにしてください」


 ちなみに弘樹はこのボス部屋に来るまでに何回か戦闘をしておりかなり強くなっていた。さきほど放った魔法は名前こそ前までどうりだがその火力は弘樹のステータスとあいまってすさまじいことになっている。もしこれを人間の国,たとえばエンラルド(連たちがいる)に差し向けたらエンラルドは焦土になるだろう。


「まだ足りないか。だが確実に効いているはず。まだまだMPには余裕がある。一気に畳みかけるぞ」

「はいっ」

そこで相手のブルランが弘樹に語り掛ける。

「ちょまっ。俺降参したいの⋯⋯」

だがその努力も弘樹には無意味だった。

(ああ,この期に及んで降参勧告もしてくれるなんて優しい龍だな)

「すいません,俺全力で行きます。降参はしません。最後まで戦いぬきます」

「いや,君が降参っていうことじゃ」

(集中。今ここで決めるぞ。俺が今まで使った中で最強のこの技で一気に勝負を決める)

そう思うと連の纏う魔力が最高潮になった。


「発動,集熱覇天滅却砲グラン・バースト・フレイム」

「もうやめてーーー」


 集熱覇王滅却砲グラン・バースト・フレイム。それは弘樹が開発したいま出せる最強の技。自身の放てる最大の熱を一点に集中し,破壊効果を掛け,ぎりぎりまで温度を高くしたうえで敵に向かって発射するこの技はまさに最強。核爆発や水素爆発の数十倍のダメージを与え,敵を燃やし尽くす。弘樹の最終兵器であった。当然このダメージを受け,戦闘続行が可能なものなどいるはずもなく,

「もう,俺の負けでいいから,なんでもするから許してよぉ。うわぁぁぁぁん」

と,こうなるのである。

「マスター,わかりきってましたが勝ちましたね」

「おれ,勝ったのか。よっしゃあ。だがギリギリの戦いだったな」

「で,どうしますか。あの竜,なんか叫んでいましたが」

「ん? あ,ブルランさんか」

弘樹はブルマンに近づき手を差し出した。

「いい戦いでした。ありがとうございました」

「ああ。もしかして俺を殺さないでくれるのかい」

「殺す? そんなことしませんよ。それにきっとブルマンさんは今も力を隠していていつでも俺を殺せるんでしょ」

「そんなことないが⋯⋯」

「またまた。あ,そうか,そういうことは言えないのか。まあ,何はともあれありがとうございました」

「(なんか誤解されてるけどいいや)うん。こちらこそ。それで君は何が望みかな」

「望みですか」

「そう,望み。この魔窟に来たんだから望みの一つや二つくらいあるでしょう」

「そうですね,地上に戻ることでしょうか」

「地上に戻る,か。それは望みとは関係なく達成されてしまうね。他に何かないのかな」

「うーん。望みですか」

「マスター,ここは大きく出ても問題ないかと」

「分かった。実は望みは二つある。一つ目は人化できるようになること。二つ目は何度でもここに来れるようになること,だ。どうかな」

「分かりました。どちらもすぐにかないますよ。まず何度でもここに来る,から解決しましょうか。まあ,これは魔窟の主である私が許可を出せばいいだけなのですぐ終わります。⋯⋯,はい,終わりました」

「もう? さすがです」

「ありがとうね。次に人化ですが,これは私が人化するのを見れば何かヒントが得られるかも知れません」

「え,できるんですか」

「もちろんです。上位の龍は人化ができるんです。それじゃあ行きますよ。よく見ていてください」

そう言うとブルランは人化をした。ブルランの人化した姿はざ・イケメンという感じだった。

「どうですか。分かりましたか。まあ,最初の方は難しいと思うので少し練習をしていきましょう」

「どう,シー。再現できそうかな」

「少し待ってください,⋯⋯。できました。いつでも人化可能です」

「早いなあ」

「まずは準備体操からですよー。って,どうかしましたか」

「あ,人化できました。ありがとうございました」

そういうとブルマンは目を丸くする。


「へ,は,はやいですねぇ。まあいいでしょう。それではここでお別れですね」

「そうですね。まあ,いつでも来れるんですけど」

「そうでした。次からいきなりここまで来たい場合は魔窟の入り口の前でボス部屋まで行きたいと願って下さい。そうすればここに来れますよ」

「分かりました。ありがとうございます。それではさようなら」


 そういうと弘樹は転移門の上に乗り地上まで転移するのだった。こうして弘樹の洞窟暮らしは終わり地上での生活が始まった。だがこの時はこの後弘樹に何が起こるかなど知る由もないのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最弱のトカゲに転生したので進化して最強になってみる~ダンジョン暮らしの少年は外の世界の強さが分からない~ @Rusann

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ