弘樹が階層の王になった件
~サイド 狼の群れのボス~
俺はこの階層最強の狼だ。ここが迷宮何階かは知らないし知りたいとも思えない。大事なのは俺が,俺の群れが最強で俺がそのボスであるということだ。
俺の種族はブラックウルフ。レベルは650。向かうとこ敵なしの最強の個体。そして俺が従えるのはハイウルフの群れだ。配下たちも最近レベルが上がってきて強くなっている。ただ,俺の群れには宿敵と言える存在がいる。それはビーの群れだ。あいつらはできるなら戦いたくない。こちらの数の利が覆される上にクオータービーがどんどん増えていきやがる。ウザったらしいことこの上ない。本来であれば群れを上げて殲滅したいところであるがそれはできない。なぜならあいつらを絶滅させるということが不可能に近いからだ。
俺も父から聞くまでは知らなかったのだが,ビーというやつは殺されればクオータービーになり,また襲い掛かってくるらしい。そしてそいつらを作っているクイーンビーというやつの居場所は隠されていてわからない。
今まで何代も前から戦い続けているが決着はついていないらしい。だがそれも俺の代で終わりだ。歴代最強の力をつけた俺が仕切るこの群れが決着をつけてやる。今は力が足りないがいつかかならず倒してやる。そう,少し前まで思っていた。
異変が起きたのは今日の夕方だった。今日も俺に逆らう種族を滅ぼしいい気分だった時,いきなり群れの連中が俺に報告をしてきたのだ。
「大変です,リーダー」
「どうしたんだ。またどこかの勢力が俺たちにたてついてきたのか」
「いえ,そうだったらよかったのですが」
「違うか。今俺は気分がいい。今まで強がっていたベアーたちを従えさせたのだからな」
「さすがはリーダー。それは素晴らしいことですね。では,報告いたします」
「おう,いえ」
「ビーが殲滅されました」
「はっ? 今なんと言ったのだ」
「ですからビー族が,忌まわしきビーが殲滅されました」
「それは誠か。素晴らしいぞ。で,誰がそれを成し遂げたのだ。ウル隊部隊長か。遊撃王か」
「いえ,それが我々ウルフではないのです」
「何と」
「斥候部隊によると,それは大きなトカゲでした」
「なんだと。それは単独で,か」
「はい。我々も信じられないのですが,いきなり炎の魔法らしきものを発動させると辺り一帯焼け野原になり,すべてのビー及びクオータービーが殲滅されました」
「クイーンビーはどうなのだ。あいつが残っておればいとも簡単にビーは復活するぞ」
「さきほどから群れ全体でビーを探していますが一匹も見つかりません」
なるほど。あれだけうじょうじょいたビーがいなくなったということを見ると本当に死んでいるようだな。では,それを行ったトカゲとやらは何者だ。
「して,そのトカゲについて分かっていることは」
「自分の爆発で作った荒野の真ん中に居座っています」
「ほう」
つまりそれは我らウルフに挑戦状をたたきつけているということか。ならば受けないわけにはいかない。そこでブラックウルフは大きな声で咆哮する。思えばこれが最初にして最後の間違いであった。だがそんなことをするすべはハイウルフの群れのボスにはない。
「全ウルフに告ぐ。その忌まわしきトカゲを倒すぞ。やつは我らウルフに挑戦を仕掛けてきた。誇り高き種族として受けないわけにはいかない。必ず勝つぞ」
「おーーーーーーー」
ちなみに弘樹に全くその気はない。ただの気まぐれでそこにいた,それだけである。
そして場面は最初に戻る。
「トカゲ,3キロ先に補足」
「うむ。全部隊突撃」
「ウォーン」
作戦どうり,うまく行っているな。トカゲはもうかなり接近しているのに動き出す様子はない。これは寝ているのか。どちらにせよビーとの戦闘で疲れているはず。報告にあった大規模魔法も使えないだろう。この勝負,もらった!
◇
「残り部隊数,2.それ以外の部隊10は壊滅。残りの物も無事なものはいません」
「撤退は可能か」
「不可能です。向こうの魔法の射程圏内から逃げ出すことは不可能に近いです」
「なぜだ。なぜこんなことになったのだ」
そう,それはウルフの群れのボスが突撃を開始してから約1分が経ったころだった。距離にしてトカゲと約一キロ,突撃部隊を先に行かせて自分は後ろから状況を見渡しながら,トカゲを殺すより従えたほうがよかったかなと思っていた時異変は起きた。それは一瞬。トカゲの口に炎が集まるとそれが放射された。ただそれだけだ。だがその瞬間,夜が昼のごとき明るさになった。炎は一直線に進み,ハイウルフのいくつかの舞台に当たると配下たちを次々に消していった。
「何事だ。何が起こったのだ」
「分かりません。ただ,あのトカゲが攻撃をしました。その結果,一発でこちらの部隊はほぼ壊滅」
「なんだと」
いったい何が起きている。理解できない。もしかして,あいつはまだ魔力があったのか。だがそんなはずはない。と,とりあえず今はこの状況を何とかしなくては。
「部隊を左右に分けろ。あの魔法の被害をできるだけ減らすぞ。それに,全部隊に撤退許可を出せ」
この時点でこれだけの判断をできたのは,ひとえに彼が優秀だったからだろう。もしこれが無ければもっと早くウルフはこの階層から消えていた。だが,その判断は遅かった。あまりにも遅かった。もし,生き延びたければ弘樹がこの階層に来てすぐに,絶対服従を誓うべきだったのだ。
「残り部隊数二.それ以外の部隊十は壊滅。残りの物も無傷の物もいません」
「撤退は可能か」
「何度もいいますが不可能です。向こうの魔法の射程範囲から逃げ出すことは不可能に近いです」
「なぜだ。なぜこんなことになったのだ」
「残りの二部隊,消滅しました」
「くそ。残っているのは我々だけか」
「はい」
「敵,魔力を集めました。魔法きます」
「俺もここまでか」
「放射されます」
「くそ」
最後の特大の一撃で辺りは一面ガラス状になった。片方は無被害。片方は文字どうり全滅。それがこの戦闘の結果だった。そして弘樹がこの階層の王になった瞬間でもあった。
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