第3章 美少女ギャルと遠回りの末付き合うことになった件
第1話
サイズを間違えたリビングの小窓のカーテンの隙間からは、朝日が差し込み、窓越しに朝を知らせる鳥の鳴き声が聞こえてくる。
「体いてぇ……」
体を起こし、大きく伸びをすると体の節々が悲鳴を上げ、俺が寝ていたソファーが少し軋む。
腰は他の部位よりも痛むし、やっぱりソファーで寝るもんじゃないな。っていうかなんでソファーで寝てるんだ?
昨日の記憶を辿ってみる。昨日は帰ってきて、すぐにシャワーを浴びた。その後は、少しリビングで伸びていたところを祐奈に捕まり、事情聴取を受け、解放されると同時に睡魔に身を預けたんだっけか。
昨日のことを思い出したのち、時計に目をやると6時を指している。ベッドで寝直そうと思ったが、それが許される時刻はとっくに過ぎていた。いや、朝食を諦めて、ついでに学校まで走る覚悟をすれば、1時間半くらい寝れないこともないか。
「お兄ちゃん、おはよ」
「おう、おはようさん。よく起きれたな」
ドタドタっと階段から音がしたかと思えば、祐奈がリビングにやってきた。
「昨日お兄ちゃんが行った後で少し寝たからね。お兄ちゃんから事情聴取する準備は万端だったんだよ」
そう言うが、目は半分も空いておらず、大きな欠伸をしているあたり、寝足りないらしい。朝ごはんまでに顔洗って目覚ましとけよ、と言って顔を洗いに行く。
冷たい水で顔を洗い、眠気を飛ばすと、いつものように寝ぐせ交じりの髪をして、やる気のなさげな俺が鏡に映っているのが目に入った。
顔を洗い終えた俺は制服に着替え、キッチンに立つ。朝から大したものを作る気はないが、コーヒーと食パン1枚では栄養バランス的に微妙だ。目玉焼きとサラダにするか。
「お兄ちゃん、メール来てるよ」
「朝からなんだ? 学校に爆破予告でも届いた?」
「なんで最初にそれが出てくるの、物騒だよ」
「いや、臨時休校のお知らせであって欲しいという俺の願いがだな。天気とか関係なく臨時休校になりそうじゃん。で、誰からなんて?」
俺、もし臨時休校なら、ベッドで2度寝するんだ。駄目だ、これフラグっぽいぞ。
「芽衣さんから、もしよかったら駅前で待ち合わせして一緒に登校しない? って。断ったりしないよね?」
「断らないから、何時に集合か聞いといてくれ」
「あいあいさー」
そう言うと祐奈は俺の携帯を弄りだす。
「前みたいに変な返信するなよ」
「変なって言わないでよ。私の素敵な文章のおかげでデートできたんだし」
「はいはい」
チン、と音が鳴ったトースターから食パンを取り出し、出来立ての目玉焼きを添える。
淹れたてのコーヒーと、適当に野菜を洗って切っただけのサラダ、トーストに目玉焼きとそれなりの朝食が机に並ぶころには、祐奈の手によってカーテンやシャッターが開けられ、部屋には太陽の光がしっかりと差し込んでいた。
「いただきます」
「はいよ、召し上がれ。俺も、いただきますっと」
2人して手を合わせてから、トーストを口にする。2口ほど食べて、少しの水分を持ってかれたところで、コーヒーを飲み口を開く。
「なあ、祐奈。結局何時に駅前集合になったんだ?」
「えっとねぇ、7時50分。だから、7時40分には駅前だよ」
現在の時刻は7時ちょうど。10分あれば駅に着くことを考えれば、時間的には余裕だ。
「言われなくても10分前には着いてるつもりだ」
おお、と祐奈は感心しているけど、俺は何だと思われてるの?
「あと、ちょっと頼みたいことがあるんだが、食べ終わったらいいか?」
「いいよー。何?」
「昨日みたく髪整えてくれないか? 自力で出来る気がしないんだ」
「しょうがないなぁ」
祐奈はあっさりと承諾してくれたので、ありがとう、と礼を言って朝食に戻る。
朝のニュースを横目で見ても、朝食を食べ終えるのに20分とかからなかった。
「お客さん、どんな感じの髪形にします?」
「俺は今から髪でも切られるのかよ。いい感じに頼む」
「ノリ悪いなぁ。昨日と同じ感じでいい?」
「おう、頼む」
祐奈の手によって、髪が手際よく整えられていく。最後によくわからんスプレーまでかけられたが、5分と経たずに完成した。鏡に映る俺は、いつもよりか幾分マシな状態になっている。
「ありがとな」
「うん。でも、毎朝やるのは嫌だから適当なタイミングで覚えてよ」
「ああ、分かってる」
祐奈はまだ夏休みってもあって、朝の時間はたっぷりあるだろうが、来週からは学校が始まり、朝からバタバタしてるだろうから、俺に割ける時間はないだろう。
「じゃあ、お兄ちゃん行ってらっしゃい」
「おう、行ってきます」
「早く着きすぎたな」
家を出たのが、7時半を回ったところ。そして今は7時35分。どうやら、浮かれているのは俺みたいだ。駅前は制服の高校生がちらほらと見える程度。とはいえ、広場の端の方へと目をやると、友達や、恋人を待っている制服姿も少なくはない。
こういう時は大衆に倣うのがよい、という日本人らしさ全開の考えのもと、駅前広場の端の方へと足を進める。
待つ間、携帯を弄っている人も結構いるが、なんというか失礼な気がして、ぼーっとしていると、目の前に誰かが立った。時間にはまだ早いし、バスで駅まで来ると言っていた芽衣ではなさそうだが、そう思い顔を上げると、そこにはあーしさんが立っていた。
えーっと、何の用ですかね?
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