第38話

 俺がみんなの予定をまとめている間に、机の真ん中に置かれたノートの1枚には、3人の字で夏を連想させる言葉が書かれていた。旅行、プール、海水浴、天体観測、キャンプ、BBQ、夏祭り、花火大会、勉強会。一部を除いて、どれも夏という感じだが、すべてを実現するには金がかかりすぎる気がするし、全員で、ともなると予定の調整が中々に大変そうだ。


「みんなが参加できる日はそんなに多くないね」

「まあ、しょうがないだろ。俺と芽衣はどこにも属してないけど、篠崎は部活、若宮さんは生徒会があるんだし」

「まあ、そうだよねー」


 若宮さんは携帯を弄って、夏祭りと花火大会の日程を調べては、手元にメモしている。


「どの辺を削るかだな。勉強会削る?」

「おい、待て、やめろ。やめてください」


 勉強会と書かれたところには(めっちゃ重要、大事!)などと付け足されているが、すべて篠崎の字だし、他はそこまで必要としてなさそうなんだよなぁ。


「じゃあ、何削る?」

「削るっていうか、一緒にできそうなのは一緒にした方がいいんじゃないかな。ほら、旅行もキャンプも似たようなもんだし、泊りでキャンプならバーベキューと天体観測もできそうじゃない?」

「なるほどね。でも、外泊許可出るのか?」


 あー、と声が揃う。

 多分、我が家ではあっさり出ると思う。というか、芽衣と一緒だ、と言えば、母さんと祐奈が何としても行かせようとしてくるだろう。何なら俺に行く気がなくても行かされるレベル。別にそういう関係じゃないってのに。


「貯金危ういし、きついかも」

「どこに行くかによるな」

「とりあえず保留にしておこうか。バラして日帰りでやるってのも考えておきたいね」

「そこは帰ってから確認ってことで」


 うーん、と声を上げて机に突っ伏す若宮さん。


「ごめん、芽衣ちゃん。近くの花火大会だと、私と和也くんはどうしても動かせない予定が被っちゃってるの」

「そっかー。じゃあ、しょうがないね。夏休み最後の日の花火大会とか皆で行ければ、楽しいだろうなって思ってたんだけど」

「悪いな。雨音がどうせ暇してるから、雨音と行ったらどうだ」


 篠崎と若宮さんがニヤニヤしながらこちらを見てくる。どうやら、要らん想像をしているらしい。


「まあ、予定入ってないからいいけど」


 うん、じゃあ、そういうことで。と言って携帯を弄りだす芽衣。顔を赤く染めて、露骨に照れるのやめて。俺まで恥ずかしくなるから。


「じゃあ、残りはプールと海と夏祭りか」


 夏祭りって割と高確率で花火見れないっけ? もうそれでいいんじゃない? みんなで見れるし。駄目?


「8月の半ばに、海の近くで夏祭りやってるところあるから、そこで海水浴してから夏祭り参加でどう? 夏祭りは三日開催らしいんだけど、最後の日しか花火やらないらしくて、そこは残念なことに登校日だから花火は見れないんだけど」


 なんだろう、何としても花火大会に行かせようという、強力な何かが働いてるのを感じる。


「とりあえず海に行けるなら何でもいいぞ」

「私もそれでいいよ」

「じゃあ、そういうことで」


 こんな感じでどんどんと予定が決まっていく。予定は未定を地で行く俺は確認すらされなかったりもしたが、そこは仕方がないだろう。せめて意思確認くらいはしてほしかったが。

 決まった予定を確認しながら、呑気にデザートを頬張る。


「思ったよりぎっちり予定が詰まったな」

「いや、雨音のその量はぎっちりとは言わないでしょ」


 休みだというの、週に3、4日ペースで予定が入ってるのは十分ぎっちりだと思うんだけどなぁ。とはいえ、予定の半分くらいは篠崎発案の勉強会なのだが。


「まあ、いいじゃん。夏休み、楽しみだね!」

「明日は学校だけどな」



 ***



 夏休みの予定を決めてからほぼ1日。

 校長のながったるい話で何人かが熱中症になった終業式と、通知表を受け取るだけのHRホームルームも終わり、家に帰れば夏休みという状況にもかかわらず、俺は炎天の下をさまよっていた。


 原因は祐奈から返ってきたメールだ。俺が本屋に寄ってから帰るとメールを送ると、じゃあ、ついでにティッシュを買ってきてくれ、と。ストックが無くなってたから買ってある、と返せば読書感想文用の課題図書が欲しい、と返信が来る。課題図書一覧の中には俺の持っている本も沢山あったので、部屋にあるから持ってけ、と返すと、じゃあ、と続く。


 俺が今、家に帰ると何か不都合があるみたく、次々とものを頼まれる。まさか、彼氏か? 彼氏が家にいるから、お兄ちゃんは絶対帰ってこないでというアレか。もしそうなら、親父が知ったら大変なことになるな。多分速攻でこっちに来るぞ。俺が、親父落ち着けって言いながら親父を抑えないと、我が家に物言わぬ肉塊が生成されるまである。それは勘弁してほしい。

 そんなことを考えながら、駅前の商業施設を右往左往してる。もうそろそろ、屋外と屋内の温度差で、俺の体調が大変なことになる気がするが、もうしばらく祐奈とのメールは続くのであった。

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