第36話

 祐奈は無事試験を突破し、俺の試験も問題なく終わった。

 祐奈の英語は、出題率が高そうだ、と読んで教えた範囲が見事に当たったらしく、ほぼ満点。点数が良すぎてカンニングを疑われたらしい。

 俺はこの間こそ集中できなかったが、祐奈の勉強を見ているうちに調子は戻っていたし問題ないだろう。


「雨音、俺はやったぞ」


 そう言って俺の机に倒れこむ篠崎。篠崎の風邪は思いのほか長引き3日ほど休むこととなった。

 莫迦は風邪をひかないというのは嘘だったのか、と思いつつ、見舞いにも一応行ったのだが、共に見舞いに行った若宮さんとイチャつきはじめたので、課題を投げつけて帰ってやった。そういう訳で今回は勉強会も無く、それぞれが自力で試験に挑んだことになる。


「試験の結果はどうだって?」

「今採点が終わってる科目では赤点無しだと。俺が再試の常連過ぎて、ほとんどの科目で先に採点されたらしいから勝ったも同じだよな」


 うちの学校では中間試験と期末試験の赤点の合計が3つを超えると、再試のおまけに長期休暇中の補修がついてくる。前回は赤点が無かったし、今回も今のところ赤点がないということは、今年は無事に夏休みを迎えられるということか。


「良かったじゃんか。今年は中学生と一緒じゃないかもしれんぞ」

「学校体験で夏休みに、ここに来た中学生が体験授業してる教室の隣で補習プリントをやったのは、正直辛かった」

「想像するだけでしんどいな」

「しかも、その後中学生が校舎を見て回る時に、見世物みたく見られるんだぞ」


 見世物にされるのは、若宮さんと付き合うまで日常茶飯事だったろうに、何を言ってるんだろうか。


「とはいえ、良かったじゃないか。来年は嫌だろうが夏期講習あるから、夏休み返上でここに来るんだし、高校3年間夏休みは毎日学校で勉強してたってのは回避できたな」

「それに俺には菜々香がいる。これはもう3年分夏休み遊び倒すしかないよな」

「ごめん和也、夏休みの前半は学校体験の準備だから。あれ生徒会の管轄なの」


 思わず笑いがこぼれる。ざまぁ、とでも言ってやろうか。うるさかった篠崎のテンションはだいぶ落ち着いたが、おのれ、中学生め。滅ぼしてくれるわ。などと、物騒なことを呟いていた。


「夏休みか、俺はどうしようかなぁ」

「前半は部活除けば暇だから、遊びに行こぜ」

「一回親のとこ行くだろうから、その後な」


 夏休みは実家に行くからこっちに来れない、と母さんから言われたが、その後、一応顔を出しに来い。祐奈を連れてだぞ、何なら祐奈だけでもいいけど。と父さんから追って連絡がきた。

 祐奈のこと好き過ぎるでしょ、父さん。まあ、祐奈は父さんのことを嫌ってこそないが、思春期相応の態度をとるから、一方通行で見ていて辛くなるのだが。一応俺と祐奈の成績も見せる必要があるので、親の方に行くことだけは決まっている。


「盆になると混むだろうから、早めに行ってくるし、俺がいない間は課題でもやっとけ」

「お前んとこも大変だよなぁ」

「まあ、気ままにやれてるし、これくらいなら安いもんだ」

「ねえ、それいつくらいの話?」


 ちょっと俺らの話に顔を出したかと思ったら、ふらりといなくなった若宮さんに連れてこられた芽衣が聞いてくる。


「今月中にはいこうと思ってる。祐奈は8月に夏期講習があるから。けど、なんでそんなこと聞くんだ?」

「いや、ほら、学校の最終日とかに集まって、夏休みの遊びの予定とか皆で決められたらなぁって思ってたから」

「そういうことか。休みに入っていきなり行くのは、せわしなくなるし、少しはのんびりしたいから休み入った週明けくらいになると思う。まあ、すべては祐奈次第だけど」


 よしっ、と小さく呟いた芽衣は、二人に目配せをしていた。何か企んでいるんじゃないか、なんて思ったが、まあいいか、と頭の端に追いやる。


「3人は試験の出来どうだったんだ」


 話を戻すように篠崎が聞いてくる。今回は再試がほぼ無いからと安心しきっているようだ。


「良くも悪くも、いつも通りだな」


 2教科は満点を逃しているのが自己採点で分かっている。委員長は相変わらず満点だろうから、今回も主席はお預けだ。


「私もそんなに変わらないかな」

「山読み違えたから、今回はだいぶ順位低いと思う。30位くらい?」


 山を読み違えて、それだけ取れたら十分だろ。完璧に当てたら、俺の次席の座とか取られちゃうんじゃない? というか、俺も次席の座に甘んじることなく主席を目指すべきなんだけど。


「そういえば、唯織が今回はほとんど満点で1位だって喜んでたよ」

「マジで、すごいな」

「壮太が教えてくれたところがそのまま出たから、お礼言っといてって言われたの」


 芽衣の見舞いに行ったときに、朱莉ちゃんと拓弥くんの相手しながら、ちょっと分からないって言っていたところを見ただけだから、ほとんど実力みたいなものだと思うんだけど。


「雨音に教わるとやっぱり成績伸びるのか。これはもう夏休みの課題も一緒にやって、俺の成績を赤点常連から平均点常連くらいまで上げるしかない」


 平均点は結構動くし、何の意味もない数字なのに、なんでそこの常連を目指そうとしているんだ。目指すならもっと上を目指してくれ。


「それはいいけど写させないからな」

「チッ」


 せめて隠そうとしたらどうだ。露骨に舌打ちとかするなよ。


「じゃあ、勉強会も夏休みの予定に入れよっか!」

「君たち、試験終わって、夏休み気分なのもいいが、まだしばらくは授業やるからな。ほら、席に座った」


 どこからともなくやって来た宮野先生が、話に割り込んでくる。時計を見ると、もうすぐ昼休みは終わりのようだ。

 はーい、と揃ってやる気のなさそうな返事をして、席に戻っていく。

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