第29話
キッチンから、俺が作ってきたものが温められたり、盛り付けられたりしてが持ってこられる。
「相変わらず美味しそうだね」
「そりゃどうも」
続いて、飲み物を持った篠崎がやってきた。無事だったんだな。
「雨音、謀ったな」
「いや、騙してないし、計略にかけてもないだろ。ただ事実を言っただけだ」
「二人とも」
笑顔で2リットルペットボトルを構える若宮さん。怖いよ。それで殴られたら頭へこむって。
「スミマセンデシタ」
「悪かった」
「じゃあ、始めよっか!」
若宮さんの一言で、芽衣の誕生日パーティーは始まった。とはいえ、耐熱容器に入ったパーティー料理を食って、適当にジュースを飲みながら喋っているだけだが。
「このローストビーフめっちゃ美味しいんだけど、これも雨音君の手作り?」
「ああ、そうだけど。てか既製品のローストビーフとか売ってるの?」
「うちはそもそもローストビーフとかでないから」
「芽衣ちゃんのとこ姉弟多いもんね」
「そうなの。だから私とか唯織の誕生日はあっさりした感じで終わり」
「雨音デリバリーでも使ったら。雨音がご飯を作って、持ってきてくれる素敵なサービス」
「そんなの始めた覚えがないんだが」
俺とてやることが多いのだ。家事とか、勉強とか。それに十分すぎる仕送り貰ってるから金にも困ってないし。金に困ったらやってみてもいいかもしれんが。
「そのサービスあったら毎日私使う。1人分って作るの億劫なんだもん」
「残念ながら開業予定はありません」
ブー、と皆から非難の声が上がる。
なんで俺が悪いみたいな空気を作ろうとするんだよ。まあ、唯織ちゃんの誕生日に何か一品くらい作って渡すくらいならしてもいいかな、と思ってはいるけど。なんだかんだで、一番我慢してる気がするんだよね唯織ちゃん。
「さて、お待ちかねのケーキだよ」
机の上に置かれていた料理がそれぞれの胃に収まりきると、若宮さんがチョコレートケーキを持ってこちらにやってくる。
「えっ、これって」
「駅前のケーキ屋のだよ」
「こういうのよく分からないんだが、なんかすごいの?」
芽衣が驚いている理由がわからないので、芽衣に聞いてみることにした。スイーツ類はなかなか食べないし、祐奈が買ってくるのを食べるくらいだから、店とかブランドとかそういうのは分からん。
「毎日数量限定でしか売ってなくて、朝から行列が出来るくらいなの。それにすごい美味しいし。若干値は張るんだけどね」
「お母さんのお店なんだよ。芽衣ちゃんの誕生日祝いにケーキ買いたいんだけどって相談したら、作ってくれたよ。いつも一人にしちゃってるお詫びも兼ねてって」
「えっ、ななちゃんのお母さんのお店なの!?」
「そうだよ」
しばらく続くスイーツトークに置いてけぼりになる俺と篠崎。女の子って甘いもの好きだよね。話聞いてるだけなのに胃もたれしそうだよ。
「美味しい!」
「なるほど、美味いな」
話を聞くだけで胃もたれしかかっていた俺だが、満を持して口に入れたケーキは甘すぎることなく、濃厚なチョコレートの風味が口いっぱいに広がる。これは、朝から並ぶ人たちの気持ちもわかるな。祐奈にも食べさせてあげたいくらいだ。
俺らがケーキをあっという間に平らげると、若宮さんがまた何かを持ってきた。
「あとプレゼント! お財布だよ」
「俺からはお菓子の詰め合わせを」
篠崎めっちゃ無難じゃん。俺も食べ物とかにしておけば良かった。とはいえ祐奈監修だし、大丈夫だよね。
「俺からも」
渡したのは、名入れしたボールペンとハンドクリーム。祐奈的にはアクセサリーも有りだったらしいが、店に入るの怖いし、アクセサリーとか贈る間柄でもないしね。
「開けていい?」
「どうぞお好きなように」
「ハンドクリームとボールペン?」
「実用的なものの方がいいかと思ってな。ハンドクリームはこの時期あんまり使わないかもしれないが」
「普段使いするボールペンとか、これはもう、いつでも俺のことを身近に感じてくれって意味だな」
「なんで、そうなるんだよ」
「雨音君も粋なことするねぇ」
「めっちゃ嬉しい、ありがと」
まあ、喜んでもらえたからいいけど、あのバカップルめ。何でもかんでも、そういうのに結びつけるのやめてくれ。こっちが意識してやりづらくなる。
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