第17話
やってきたのは、この間来たばかりの大型商業施設。しかし、連れてこられたのは女性向けの服屋ではなくキッチン用品店。
「なぜここに?」
周りには女性客の他に大学生くらいのカップルがちらほら。男性の1人客がいないあたり、まだまだ料理をする男は少ないのだろう。
「休みが明けたら調理実習あるでしょ。だからエプロン見に来たの」
「そういえば、そんなこと言ってたっけか」
調理実習か。普段やってることをわざわざ素人と一緒にやる、最悪の実習のことだな。大勢でやっても効率と味が落ちるし、一人でやると成績まで落ちる。料理なんて大人数でやることの方が少ないんだから、一人で班組むのも有りにしてほしいものだ。
「雨音は誰と組む予定なの? 調理実習の班」
「篠崎次第だな。今年はあいつが同じクラスだから班決めには困らん」
男子だけでペアを組む際には、適当に人を集めてきてくれる。男女混合の時には、篠崎に釣られて女子が集まってくるんだから、声をかけずに済むしありがたいもんだ。
「篠崎君は客寄せパンダじゃないんだよ」
「結果的にそうなるだけだ。あれはモテるんだからしょうがない。有名税みたいなもんだ」
まあ、だからと言って俺が客寄せパンダ代わりに使っていい理由にはならんが、しょっちゅう勉強見てやってるし、そこらへんで相殺されるだろ。
さて、俺もエプロン見るか。今使ってるの結構ボロくなってきたら、いいのがあれば買いたいんだが、あるのだろうか。
メンズコーナーは想像以上に狭い。料理をする男の少なさの弊害がこんなところにも……。そのうえよさげなのはどれも予算オーバーときた。ある程度しっかりしたものを買おうと思うと、適当にワゴンに置かれている物の2、3倍ほどする。あとで同じのを調べてみるか。
「あれ、雨音も買うの?」
「良さげなのがあるかな、と思って見たんだが、普段使いしてもある程度持ちそうなのは予算オーバーだ。そっちはどうだ?」
「こっちは沢山あるからどれにしよっかなーって」
レディースコーナーには、やたらと沢山のエプロンがお手頃価格で置いてある。
「雨音はどれがいいと思う? 結構絞ったんだけどどうしても決まらなくて」
くッ、遂に来たか。本人の中ではすでに決まっている物を当てるゲームが。祐奈と母さん主催のデートのマナー講座では何も分からなかった。なんだよ女心を読むって、読めたらマナー講座要らんだろ。
「別に私の中で決まってるのは無いから、思ったこと言ってね」
「そうか」
まず廣瀬がまとってみせたのは、周りにフリルがあしらわれた白いエプロン。ぐるりと一回転して見せると、ふわりと舞い上がるエプロン。長い金髪が編み込みじゃなく、ポニーテールだったなら破壊力がカンストしてただろう。何なら罰ゲームで告白されたことをすっかり忘れて、告白して振られるまである。辛いなぁ。
「どうかな?」
「似合うな、可愛い。けど、なんかいいところのメイドっぽい気がする」
「なっ、なるほどね」
じゃあ、次だ、と言った廣瀬はエプロンを綺麗にたたむと、次のエプロンを身にまとう。紺に小さな花柄が沢山あしらわれている。
「可愛らしくていいと思う。色もその金髪とよく合ってるんじゃないか」
「そっ、そうかな? 次で最後だから」
先ほどと同じように棚に戻すと、最後のエプロンを着始めた。
最後のはラベンダー色にピンクの紐。腰回りの紐が長く、正面で結ぶタイプのものだ。リボン結びされた紐が良い感じのアクセントになっている。紐を正面で結ぶ都合、しっかりと引っ張る必要があるので他のものよりも腰回りがしゅっとして若干胸部が強調されていた。
「どうかな?」
「シンプルでいい感じだな。正面で結んでるのもワンポイントになってて良い感じだと思う」
女子というのは男がどこを見ているのか分かるらしいので、とりあえず顔を見ておこう。その豊かな胸部なんて全然見てないんだからね。
「ふむふむ。あー、雨音の感想聞いたらより悩むことになったじゃん」
うー、と言いながら3つをワゴンの上に並べている廣瀬。
「雨音はどれが一番良かったと思う? パッと思いついたのだよ」
「強いて選ぶなら二番目のかな。どれもすごい似合ってたんだけども。まあ、廣瀬さんは顔もスタイルもいいから、基本何でもに合うと思うが」
廣瀬は顔を真っ赤にして俯き、じゃあこれ買ってくる、と紺のエプロンをレジに持って行った。
照れてるのか、俺なんぞに色々言われたのが気に障ったのかは分からんが、気まずくなりそうだ。何が女の子のことはしっかり褒めること、だ。駄目じゃねぇか。
言葉は本心だが気まずくなると俺が困るし、とりあえずは祐奈と母さんの所為にしておこう。
「お待たせ。次はどうする?」
今度こそ、私が次に行きたい場所はどこか当てろゲームだな。
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