第7話
最終下校時刻までに下校するように、といった旨の放送も生徒会の管轄のようで、俺は最終下校時刻の30分前には解放された。
初日から仕事しすぎでは? なんだかんだで2時間近く働いたぞ。これが平日毎日とはやってられない。
すっかり固まった体を伸ばして、昇降口を目指す。ふと、階段から見慣れた一団が下りてきた。あーしさん率いる派手目な一派だ。
残念、今は俺一人で篠崎君はいません!
別段話すこともないので見なかった振りをして祐奈に、今から帰るから米だけ炊いておくように、とメールを送っておく。
「こんな時間までどうしたの?」
昇降口につくと、廣瀬が話しかけてきた。あれ? 他の面々は先に帰ってるけど一緒じゃなくていいのか?
「仕事してたんだよ。そっちはどうしてこんな時間まで?」
「もうすぐゴールデンウィークだから予定立ててたの」
「そうか」
会話が途切れ沈黙がやってくる。まあ、俺に話したいことはないからいいんだけども。
特に話もないが別れるタイミングがつかめないまま、だらだらと一緒に下校している。なんと居心地の悪いこと。こんなんなら急いでるフリでもして昇降口で別れておくんだった。
「あのさ、雨音は」
廣瀬が口を開いたタイミングに合わせて、めったに使わない俺の携帯が鳴りだす。
こんな着信音だったのな俺の携帯。忘れてたぜ。
「出ていいよ」
すまん、と頭を下げて電話に出る。電話をかけてきたのは祐奈だ。
「どうした?」
『それは私の台詞なんだけど、お兄ちゃんどうしたの? 昨日の件で怖いお兄さんにでも捕まってたの?』
割と心配そうな声だ。いや、でも心配の仕方間違ってない? お兄ちゃん知らず知らずのうちに悪影響を与えていたのかしら。
「怖いお兄さんには捕まってないから。もっと怖い仕事に捕まってただけだ。ゴールデンウィーク前まで続くらしいからしばらく帰りはこんなもんだ」
『じゃあしばらくご飯外で食べよ。駅前集合でいい?』
祐奈なりに俺に気を使ってくれているようだ。正直、夕飯を作る気力はそこまで無かったから助かる。提案されなかったら、しばらくは肉野菜炒めみたいな簡単なおかずばかりになっていただろう。
「まあいいけど」
じゃあ、そういうことで! と言われてて電話が切られた。
「で、なんだって?」
駅前に着いたらどうするか考えるのはいったん置いといて、電話で遮られた廣瀬の話を聞くことにした。
「大したことじゃないけど、お昼どうしたの? お弁当じゃなかったみたいだけど」
篠崎にも同じことを聞かれたな。そんなにみんな人の昼飯事情が気になるんだろうか?
「今年から給食に変わったんだと。だから作る必要がなくなったんだよ」
「そうなんだ。嫌がられてたわけじゃなくて良かったね」
「ああ、まあな。今日は篠崎の相手するからコンビニで買ったけど、明日からは生徒会室で仕事しながら食うことになるだろうし、そのせいで若干忙しいから、それまでに分かって良かったとは思う」
「そっか。ところで仕事っての私のせいだったりする?」
ふむ、気にしているのか。もしかして実は廣瀬っていい子なんじゃない? 普通そんなに気にしないだろうし。いい子だから罰ゲームってばれたことに責任を感じて、あーしさん一派のために俺と話してるんじゃない? そんな気がしてきた。一応気を使わせんようにフォローしておくか。フォローになるかわからんけど。
「閉め出したあーしさんと授業半分近くサボった俺が悪い」
再び沈黙。もしかしなくても俺と廣瀬さんだと会話が発展しないんじゃないか。まあ、接点も共通の話題もないし妥当と言っちゃ妥当か。
ありがたいことに、今回は気まずさが限界を超える前に駅に着いた。
「おにーちゃーん」
俺を見つけた祐奈が手をブンブンと振りながら大声で呼んでいる。少しばかり小柄だからって、そんなに主張しなくても分かるから。軽く手を挙げて答えてやる。
「あの子が祐奈ちゃん?」
「そうそう。俺はこのまま祐奈と飯食ってくから、じゃあな」
「ああ、うん。じゃあね!」
祐奈に負けずブンブンと手を振って改札に向かっていく廣瀬。女子たちの間では手をブンブン振るのが流行ってるのか? 腕とか肩とか痛めそうな流行だなぁ。
「ふむふむ、なかなかに可愛い人だね。あれが噂の廣瀬さん?」
いつの間にやら横にいた祐奈がそう聞いてくる。興味津々のようだ。
「そうだけど」
「一緒に帰ってくるってことはそういう関係なの? ねぇ?」
お兄ちゃんにもついに春が、などと勝手に言っている。昨日罰ゲームで告白されただけだって言ったじゃん。祐奈の記憶力は大丈夫だろうか? 受験生なのにこんな残念な記憶力じゃ篠崎みたくなりかねん。お兄ちゃん心配だわ。
「なんもないから。ただ帰りに偶然昇降口で会っただけだから」
「ふーん」
急に興味を失ったような素っ気ない返事になる。分かりやすいなぁ。
あぁ! と突然隣で悲鳴のような声を上げる祐奈。また視線が集まる。ほんとうちの妹がうるさくてすみません。
「どうした突然」
「廣瀬さんと連絡先交換すればよかった」
ガクシ、という擬音が似合いそうな感じに頭を下げてわざとらしく落ち込んで見せる祐奈。
先ほどからよくもまあ、そんなにくるくると表情を変えるなぁ、と感心しながら二人で駅前の飲食店街へと足を運んだ。
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