第171話 閑話、ハンバーグ。3
山の中は意外と暗いものである。
たとえそれが昼間だとしても。
平成の知識を持つ十全には、明るい山のイメージがあるが、アレは観光地として整備されているからである。
本物の鬱蒼とした山の森はあちこちに死角があり、獣道じゃなければ足元も見えなくなってしまうモノなのだ。
こんな場所で獣と鉢合わせすれば歴戦の戦士でも簡単にやられてしまうこともある。
地球の昔話などではそうして命を落とした英雄の話も少なくない。
だから慎重にいくのが正しいものだ。
十全はウルトゥムが用意してくれていた十全の分のギリースーツに身を包んで、藪の中に身を潜めたり、獣道を調べたりしながら獲物の痕跡から位置を特定していく。
「痕跡から豚だと思います。」
十全の耳に直接ウルトゥムの声が聞こえてくる。
これは十全が平成の知識でツィマットに作ってもらった骨伝導トランシーバーである。
短距離間だが、無線通信を可能にしたトランシーバーにスピーカーとマイクの部分を骨伝導式に改造してあるのである。
骨伝導とは声を出したり、音を聞いたりするときに、耳の周辺の骨が震えるパターンを解析して、それを再現することで、音を出さずに会話ができるようになっている。
音を立てるのを極力避ける狩りの際中にはもってこいのアイテムだった。
「見てください。大きな野生の豚が居ますよ。」
しかし十全は声を大にしてツッコミたい。
「アレは
実際は声を出さずにツッコんだが、十全の視界には二本足で立つ豚、オークがフゴフゴ言いながらキノコを食べているのが見えている。
地球ではファンタジーの存在だったが、この世界に来てからは確かに存在する、知的生命体の一種である。
多くの個体は知能が低めだが、確かな社会性を築けるだけの知性はあり、文化も持っている。
アザトース星系ではオークだけの国もあったそうだが、今ではボリア帝国に侵略されて、ボリアの下級市民となっている。
「ミツル、違いますよ。アレはオークに似ていますが
と言ってくる。
類人豚?類人猿みたいなもんか。
たしか、類人猿が人に似たサルで、類猿人が猿に似たヒト。分類上は別物である。
って、事は。
類人豚だから人に似た豚ってことでいいのか?
「よく見てください十全。アレは後ろ足も短いですし、前足は蹄と親指になっています。背中も前かがみで、何より肩と首の骨格が違います。あの形では背骨に頭蓋骨が乗らなので脳は発達せずに知性は低いままです。」
な、なるほど。
生物学的に明確な差があるんですね。
そしてつまりあれは食べてもいいのですね。
「多分、戦争時にボリアが持ち込んだのが野生化したのでしょう。」
明らかな外来種というわけだ。
むしろ地球の生態系を守るためにも、積極体に狩るほうがいいのだろう。
「それじゃあ、一狩り行こうぜ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます