第163話 魔法。5

「エイボンの書にはまずこうあります。」


 自らの内なる深淵を覗き込むか。


 星辰の内なる深淵を覗き込むか。


「見るモノによって魔術とは如何様にもその姿を変えるだろう。」

 ヤーガはツィマットから返してもらった「エイボンの書」の冒頭のページを開いて説明を始める。

「しかし、星辰の内を覗くものよ、心しろ。ソコには何が居るか分からないのだ。深淵を覗くとき、深淵もまた覗いてくる。」

 ひとさし指を立てて、目をつぶって語るヤーガはその部分を暗唱して見せた。

 それだけ読み込んでいるのだろう。

 「わぁぁぁぁ」パチパチパチと手を叩いてツィマットと暁は称賛する。

「ふふん、どうですか、エイボン様の英知の一端に触れた感想は。」

 ドヤ顔で胸を張るヤーガ。

「はい、ヤーガさん。」

「ハイ、あっつん。なんですか。」

 まるで教師と生徒のように振舞う2人。

「深淵を覗くとき、深淵もまた覗いてくる。という言葉は地球にもあります。」

「おや、それは興味深い。」

「確かドイツの哲学者、ニーチェって人の言葉です。」

「どんな人だったのですか。」

「詳しくはないけど、沢山の名言を残した人だったはずです。」

「興味深い、今度調べさせてもらいましょう。」


 などと、真面目なお話をしているようで、実は女の子4人そろってパジャマ姿だったりする。

 つまりパジャマパーティーである。

 むしろパジャマパーティーで何を小難しい話をしてるんだとツッコミたい。


 ヤーガはピンクのフリルがたくさんついた可愛らしいパジャマ。


 クームが水色のシンプルなパジャマ。


 暁は黒のナイトドレス。


 そしてツィマットは熊か何かを模した着ぐるみのようなパジャマである。


 メタな話、作者的にはツィマットが一押しである。

 誰か神絵師がデザインしてくれないかな。とか期待している。


 まぁ、それはともかく。


「現在のボリア帝国では星辰の魔術はほぼ失伝しています。」

 ヤーガが魔術の説明を続けていた。

「理由は多くの弟子が発狂して、伝える者が居なくなっただの、魔術を伝える者が迫害されて人との交流を断っただの、中には魔術を極めたものは人ではなくなったとも言われています。」

「それってヤーガみたいなエイボンマニアの妄想じゃないの。」

「様を付けなさい。様を。仮にも初代皇帝を呼び捨てにしないの。あと、寝っ転がって肘ついてお菓子食べない。だらしないですよ。」

 と、茶々を入れたクームがヤーガに怒られていた。

「まあ分かりやすく言うと、教えられる魔術は自身の内に眠る力を解き放つ方法だけだってことだよ。」

「ざっくばらんすぎますわ。それに、地球の知識には自然や星の運行についての学問もあります。もしかしたら、私たちで星辰の魔術の復活をなせるかもしれないじゃないですか。」

「それで発狂は御免だけどね。」

「ふむ、魔術の在り方の基本は何となくわかった、具体的に何ができるかだな。」

 ツィマットがそう口をはさみ話を逸らす。

「そうですね。実際の実演はここではできないですし、後日、ダーリンの許可をもらって実験するとして、ここでは案を出していきましょう。」

 このパジャマパーティーが遅くまで続いたのは言うまでもない。

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