第144話 異界探索。10

「「九天にきらめけ万棘の枝・久遠の熱は大地を焦がす。」」


 クームとヤーガは魔法の実演だと二人で呪文を唱え始めた。

 2人の声は重なり合ってハーモニーを生み出す。


「盤古の泥を撹拌する旗はここに。」


「ん?クームどうした。呪文が違うぞ。」

 はずだったのだろうが途中でヤーガが疑問を口にする。


「エローム・コウラーナ・シシカバブー・アンアンデュー。」


「しまったなぁ。クームが酔っ払っているの忘れてた。」

「それ大丈夫なのかよ。」

 敵のゴリラたちがクームとヤーガに近づかないように壁役をしていた十全の耳に、そのヤーガのつぶやきが聞こえて来た。

「大丈夫じゃないねぇ~。」

「じゃぁこいつらは倒してしまっても構わんのか?」

 ゴリラたちはそこまで強くなかったので別に倒せてしまうのだが、せっかくの見せ場だと思って敵は生かしてあるのだ。

「それよりも逃げた方がイイかもよ。」

「……………。」

「クームは爆破上戸だから。」

「……総員退避~~~~~~!」

 十全が叫ぶと同時にクームの頭上に大きな力が膨れ上がるのが感じられた。


「はははははははははははははは。エンプローノ・サンダース。」


 十全たちは逃げ出すヤーガの後を追いかけるように逃げ出した。

 白い獣たちも危険を感じたのだろう。背中を見せて逃げ出し始めた。


「はははははははははははは。に~が~さ~な~い~。アトミックレーザー!」


 ピカッ!

 ド―――――――――――――――ン!


 ズバババババババババババババババババババ!

 ドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカ!


 キュイイイイイイィィィィィィィィィン。

 ズバガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!


「おい、アトミックレーザーってなんだよ。」

「さぁ?」

 十全はヤーガと共に地面に伏せて頭を抱えながらヤーガに訊ねる。

 ヤーガは何時もの無表情ながらも冷や汗を垂らしながら首をコトンと傾げる。

「クームって酔っぱらうと適当に魔法を構築してぶっ放す癖があるんですが。」

「はた迷惑にもほどがあるぞ。」

 幸いにも十全たちの逃げた方には魔法は飛んでこなかった。

 しかし、吹き上げられた土砂やらなんやが十全たちの上に降り注ぐ。

「まぁ、2分も魔法をブッパすれば魔力切れを起こすはずです。」

「頼りないなぁ。」

「だって、毎回適当に再現できない魔法を使うから、その時々で魔力切れにかかる時間が変わるんですよ。」

「とりあえず、クームがぶっ倒れるまでこっちに魔法が飛んでこないことを祈ろう。」



「ふにゃららららららららら、世界が~まわりゅううううううう。」

 それから4分ほどして、クームは目を回してぶっ倒れた。

「長かったなぁ。」

「今回は威力のわりに魔力消費が少なかったみたい。」

 クームの前にはえぐれた地面が広がっていた。

 それで魔法の威力がうかがえるだろう。

 もちろんそこに居た獣たちもばらばらだ。


 スン。

 十全が頭に乗っていた土砂を払っていると甘い臭いがした。

「まさか……」

 十全はその土砂を口に入れてみる。

「甘い。」

 砂糖、果物、焼かれた小麦粉などの味がした。

「もしかして、この世界全部お菓子で出来ている?」

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