第143話 異界探索。9

 雪景色のような白い世界。

 生クリームの池以外にもこの世界の景色は白でおおわれていた。

 その白い景色の中、立ち昇る白い砂(?)埃。


「閣下。敵性生物はこの世界に順応したもののようで、白い体躯をしております。」

 シュタ。

 と、十全の傍に山口大尉が現れた。

 山口大尉もその武勇を認められて神鎧領を賜っている。

 忍び装束の形をした神鎧領はこの世界に合わせたのか真っ白になっている。

 まぁ、真っ白になっているといっても十全や雫のように、顔から足の先まで生クリームまみれになっているわけでは無い。

 神鎧領の機能である風景に溶け込むための、カメレオンのような色を変える能力によるものだ。

 それゆえに、すぐ近くに来るまで姿が見えなかった。

 

 山口大尉の神鎧領は銘を「忍辱」という。

 「忍辱」と書いて「にんにく」と読む。

 にんにくと読むが、決してあの匂いのきつい野菜のことではない。

 そっちは大蒜である。

 忍辱とは仏教の用語で、菩薩が修行すべき六つの苦行の六波羅蜜のひとつのことである。

 恥を忍んで耐えがたきを耐え、心を動かさないことである。

 すなわち、忍者の心のありようそのものである。

 そもそも忍者とは神仏習合を果たした、修験道の影響を受けた仏教を起源とする説がある。

 奈良には「忍辱山」とかいて「にんにくせん」と呼ぶ山号のある山寺がある。

 場所は柳生の傍、奈良の街の西に在り、ここからさらに西に行けばかの有名な伊賀上野があるのである。

 これが忍者の発祥において重要だと考えることができるだろう。

 ゆえに斥候であり、敵を前に逃げることを大事にする、武人としての恥を忍んで任務にあたる山口大尉に与えられたのだろう。


 ちなみに忍辱の鎧、忍辱の衣というものがあるが、これは心身の苦行に耐えることの象徴として、袈裟のことでもあたっりする。


 しかし、今そんなことを言っても恥ずかしい恰好は十全の方だろう。

 しかし、そんなことを言ってる場合では無い。

 この異界の生物が敵意をもって近づいてきているのである。

 たとえ全身生クリームまみれでも迎撃しなければならない。

「恥ずかしいけど、これって戦闘なのよね。」

 十全の背後で雫がギリギリのことを言っていた。


 約30メートルくらいになって敵の姿が見て取れた。

 大型が3体、小型が10体前後。

「敵の戦闘力は未知数、大型3体は俺と雫、暁で対応。他は小型が俺達の邪魔にならないようにするのを最優先にして、殲滅戦。

ただ逃げる奴を深追いするな。部隊で固まって行動しろ。」

「了解。」


 と近づいてきて見れば、

「結構でかいな……。」

 小型のでも1mくらいありそうなイタチに似た生き物。

 大型に至っては4メートルくらいありそうな細マッチョのゴリラのような奴だった。

 例えるなら、イエティの方が近いかもしれない。

 どちらも体毛は白くこの世界に適応した生物だということがうかがえる。

 十全たちが武器を構えて迎え撃つ体制になると。

「ふっふっふ、どうやらクーガたちの実力を見せるいい機会みたいね。」

「クーガはヤーガたちの魔法で一掃して見せたいので、ここは譲ってくださいと言っています。」

「ちっ、違うわよ。」

「ただ、魔法の詠唱に時間がかかるのでその間敵を近付けないでください。」

 と言われた。

「……はぁ~。みんなそう言うことで。」

「了解~。」

「何で乗り気じゃないのよ。」

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