第138話 異界探索。4

 甲型機動甲冑の完成形はその名前を改めて「神鎧領しんがいりょう」となった。

 神鎧領はその性質、ナノマシンによる細胞レベルでの人体と機械の一体化ゆえに、他者との使いまわしができない個人用の専用機となる。

 加えて、制御するためのコアの製造コストが特別にかかるために量産ができない。

 その為に、新しく作られた神鎧領は一度陛下の元に献上される決まりとなった。

 その後、陛下よりその武勇が認められた者にだけ、士爵の位と共に拝領されることとなった。

 その際に、その神鎧領には名がつけられることとなった。


 松永・フルボッキ・十全、子爵の位でありフルボッキ領の領主、階級は少佐。

 今回の異界探索での総指揮官である彼にも神鎧領は与えられている。

 十全の神鎧領にも陛下から名前が与えられている。

 名前は「信貴しぎ」、松永の姓とかけて信貴山城から名前を取ったものだ。

 この信貴は神鎧領の中で1番最初にロールアウトした機体でもあり、その後に作られた機体の親機に当たる。

 その為、性能は拡張性を重視したスタンダードモデルとなっている。

 機体装甲は銀色と黒で色分けされた鎧武者のような外観で、日本刀による白兵戦が主体であった。


 というより、このアザトース星系では魔法を除いては、白兵戦が基本である。

 何故なら鉄砲や飛行機が使えないのである。

 火薬も爆発するし、ジェットやロケットエンジンだって作れてはいる。

 だが、空気中の成分なのか、速度を出すと抵抗が大きくなるのだ。

 その為ライフルや戦車砲は使えない。かろうじて拳銃が5メートルくらいの射程で使えるくらいだが、コストに見合わない。あくまで護身、または自決用の装備になっている。

 航空機もほぼ駄目だが、気球などのゆっくり飛ぶものは使えている。

 今後は飛行船の開発・改良が視野に入っているそうだ。

 そして、弓矢も使えない。

 敵も味方もである。

 瞬間的なものはすぐに失速してしまう為、この世界では発達していなかった。

 ただし、走る分には速度を出せる。

 抵抗は低い位置なら少ないのと、継続して力を加えることで速度を維持できるのだ。

 一番早いのが甲型機動甲冑の走行モードだろう。


 一つ例外を上げれば、ほぼ垂直の加速には抵抗が少ないもので、ジャンプなどはできる。

 このため、この世界では発達しなかった投射技術であるが、地球の迫撃砲だけはよく機能したものだ。


 なにはともあれ、この世界では正面からぶつかり合う白兵戦が主体となるので、開発された兵装もそれを考慮したものになる。

 ならば大和帝国の兵装が、武者の鎧兜にデザインが戻るのも道理というものだった。


 十全の信貴は当世具足の作りで、前立てもある。

 というより後で付けた。

 拡張性の高さで最初に使ったのが前立てのデザインだったのが、なんか平和である。

 その前立てには源氏八領の盾無しをイメージしたものが使われていた。

 この案は陛下より出されたもので、今後作られるすべてに前立ては使われることとなった。

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