第136話 異界探索。2
「ダーリン、お話終わった?」
そう言って十全の首に腕を回すのは青い髪のヤーガである。
彼女が十全をダーリンと呼ぶのは彼女がハーレム入りをしたから――――じゃない。
陛下から紹介された翌日、彼女を連れて領地に戻ったのだが、その時みんなに紹介するときにいきなり彼女は十全のことをダーリンと呼び出したのだ。
「こらー、ヤーガに勝手にくっつな~。」
「やぁっん。」
ぴったりとくっつく十全とヤーガを引き離すものが居た。
赤い髪をしたヤーガによく似た顔立ちの少女。ヤーガの双子の姉妹のクームである。
「このヘンタイミッチーが、またヤーガに卑猥なことをしてたな。」
「してないよ。いつしたって言うんだ。」
「出会い頭にべろちゅーを――――」
「してない。」
「階段を上るヤーガを下から覗き込んで――――」
「してない。」
「ハーレムとか言って他の女の子と一緒にベットに――――」
「してない。」
「してたじゃん。この前、ウルトゥム様やニャル様や他の女の子たちを裸にしたままベットに連れ込んだ時、ヤーガもいたじゃん。」
「あれはヤーガが勝手に混ざり込んでいただけだ。あと、勝手に覗いてたやつが何を言う。」
「かっ、勝手じゃないし。クームはウルトゥム様が野蛮人にひどいことされてないか確かめる義務があるんだ。」
「まあまあ、落ち着いてクーム。」
眉を吊り上げるクームをヤーガがなだめに入る。
「ホントはクームも混ざりたかっただけだよね。」
「違うし!」
クームは顔を真っ赤にして否定していた。
「さて、コントはこれくらいにして。」
「え~。もうちょとクームで遊びたかったな。」
「え?」
「それは帰ってからな。」
「は~い。」
「いや、え?」
一人狼狽するクームはそのままにして十全は姿勢を正す。それに合わせてヤーガが十全の執務机に腰かける。
「2人に同行してもらったのはアレの意見を聞きたかったからなんだが、どう見える?」
「単刀直入に言うとクン=ヤンの奥地の様よ。」
「クン=ヤンとは。」
「クン=ヤンとはハイパーボリアにある地下世界。ヤーガとクームの研究対象。」
「…………ハイパーボリアボリアって。」
「なに、ミッチーてばハイパーボリアを知らないの。」
今まで話から置いてきぼりにされていたクームがここぞとからかってきた。
「ハイパーボリアていうのはクームたちの故郷、ボリア帝国の首都がある主星。初代皇帝エイボン様が統一された――――って、なんでそんな嫌な顔してるのよ。」
「いや、だって嫌な単語がいっぱい出てくるんだもの。」
「どこがよ。」
多少冗談めいたやり取りをしているが、十全にとっては笑えなかった。
これまでも気になる単語や名前は出てきていた。
(それでもここまでそろうと冗談では済まないぞ。)
それは平成の地球に生きて、なおかつオタクだった十全の感想だった。
ハイパーボリア、レン、ナイアー、クン=ヤン、エイボン、そしてヴルトゥームことウルトゥム。
これらは知る人ぞ知るクトゥルフ神話に出てくる単語なのだ。
(偶然か?にしてもこの地球が転移した時代が時代だし。)
ここにきて、異界探索に嫌な暗雲が立ち込めて来た。
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