第124話 3匹のるろうにん~明治剣客浪漫譚~

「こ、これは――――これはまさか陛下が、」

 十全が慄いていたのは紅玉帝から渡された冊子そのものに対してだった。

「ふふん、どうじゃ驚いたか。」

 紅玉帝はこれでもかとドヤ顔で返す。

 十全の手にある冊子にはこう書かれていた。


「3匹のるろうにん~明治剣客浪漫譚~」


「これ、もしかして陛下が描かれたんですか。」

「そうじゃ。おぬしが先日貢いでくれた「るろうに〇心」がすっごく面白くての。自分でも書いてみたのじゃ。」

 書かれていたのはトーンなど使っていない絵筆で書かれた表紙絵。

 カラーのその絵は素人とは思えない出来栄えだった。

「伊達にP.N紅ちゃんペンネーム、あかちゃんと名乗ってはおらんぞ。」

「そう言えば名乗ってましたね。中見ても?」

「うむ、見てくれ。」

 十全はゆっくりと表紙をめくって中を見る。

 中の絵もトーンは使っていない。

 カラーでなくモノクロの典型的な漫画。

 しかし、キャラの書き込みだけでなく、背景や画面効果もしっかりと書かれたマンガであった。

「これ、陛下1人で書かれたんですか。」

「いんや、朱居とこーちゃんが手伝ってくれた。」

 皇帝陛下にそのお傍付きと帝国最高戦力がそろってマンガを描いている。

 何やってんだって気もするがある意味これも平和な証拠なのだろう。

 漫画の内容は明治に入っても刀を捨てきれなかった3人の浪人が帝都を舞台に、時代の波に翻弄されて自らの剣の道を模索する、そう言う浪漫を描いた漫画であった。

 舞台が今の大和帝国でなくて異世界転移前の日本の帝都であるのがいじましい。

 平成の世界を知る者からしたらただのパクリだと思われるが、この帝都にとってはもう戻らぬ昔ばなしにもなる。

 それを皇帝陛下自らが描いているマンガ、これは帝国の民にとって聖典と呼べるほどの価値があるものだ。

 そういったプロパガンダ的効果が見込める。

 加えて娯楽の発展にもつながる訳で、

「陛下、これはどう配布する予定ですか。」

「ん?配布。」

「もしかして書くだけで人に読んでもらうつもりがないのですか。」

「今おぬしに読んで貰っているではないか。」

「いえ、個人でなく、この大和の民皆にですよ。」

「ふむ、そのつもりはなかったがおぬしから見たらそれだけの出来じゃったか。」

「ええ、もちろん。いいですか。」

 十全は紅玉帝陛下にこのマンガの使い道を説明した。

「なるほどのぉ。布教というやつか。」

「陛下、前に言っていた秘密結社、――――え~となんだっけ。」

「萌えの夜明けと書いてモエモエ・ドーンじゃ。」

 とってもバカそうな名前だった。

「それ何をする結社なんですか。」

「みんなでコッソリ萌えな物を堪能しようって組織じゃ。」

「何でそれで夜明けって付けたんですか。」

「これはこーちゃんの命名だぞ。」

「隊長の?」

 色々なぞの多い人物であるが、直接知っている十全から言わせれば、あの人は戦闘狂である。

 そんな人物が萌えとかに関わっているのが信じられない。

「陛下、この際だから聞いておきたいことがあります。」

 十全は隊長のことを聞いておくことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る