第101話 決闘。1

 十全は領主の仕事をしていた。

 その多くは自分が動くのでなく人を動かすことだ。ただし、ただ人任せにするのではなく何をするのかを考え指示することが仕事と言える。


「集まっているな。」

 十全は騎士団の詰め所に来ていた。

「領主様、黒髪隊長が居ませんが。」

「黒髪少尉ならうちの嫁のところにいるよ。」

 その言葉に騎士団の4人はざわつく。

「おにぃ――――じゃない、領主様。それは大丈夫なのですか。」

 何が大丈夫なのかは、聞かなくても分かるが。

「大丈夫だろう。2人共そこまで馬鹿ではないはずだ。」

 十全は騎士団員の心配そうな顔から自分たちの微妙な関係が知られていると気が付く。

 しかし、だからと言ってそれでどうこうするつもりはない。

 面倒な関係はもう一人いるのだから。

「東雲少尉。」

「はい。」

 十全の言葉にまた騎士団員に緊張が走る。

「……任務に就いてもらいたい。副隊長である君に今回は指揮を執ってもらい、高田、太田、小室の3名を連れてランプ・スネークを狩って来てもらいたい。」

 ランプ・スネークとは地球が異世界転移した後に現れた「外来種」である。

 ニシキヘビの大きなやつとかアナコンダのようなサイズの蛇であり、脂身が多くて食用には向かない。しかし、漬物石などの重しを乗せて油を搾りだせば雑味の無い油がとれる。この油は明り取りや機械の燃料に仕えるのである。

 もちろんこの領地でも使っている。

 その在庫が減ってきたのである。

 騎士団の周辺巡回において群生地が確認できている、ここで補充しようということだ。

「運搬の人員の護衛も同時に行うが、できるか。」

「問題ありません。」

「ならば頼もう。それと今後騎士団員の増員があれば君たちの階級も上がり小隊長や中隊長にもなるだろう。それを念頭に置いて、任務の中で学んでいってほしい。。」

「かしこまりました。」

「それと、取り過ぎないように。取り過ぎたら次が取れなくなる。」

「分かりました。」


 十全は騎士団と狩ったランプ・スネークを運搬する一団を見送ってから執務室に戻って来た。

「しかし、暁とは上下関係では話せるけど、それ以外では全然話せていないからなぁ。このままよりはどうにかした方がいいかな。」

 十全にとって東雲 暁は元・兄妹である。

 とはいっても実の兄妹ではない。

 血のつながりこそあるがもともと分家の子で又従妹である。

 しかし、その才能を見出されて本家の養子となって、十全の義妹となっていた。

 それが十全の勘当で他人となって、暁が実家の次期頭首に決まっている。

 そこから今では主従の立場にあるのだからややこしいことこの上ない。

 あと、十全の方は暁にわだかまりがあるわけでは無い。

 だからちょっとしたきっかけで普通に話せるようになるだろうと思っている。


 十全が執務室に戻ってくると、机の上に見覚えのない書類が置かれていた。

 何か新規の報告書かと思ったが、その表面には「果たし状」と書かれていた。

「……………。」

 中を見れば。


『拝啓、初夏の日差しが強くなってきた今日この頃、~中略~つきましてはあなたに物申したいことがあるので決闘を申し込みます。○○時に屋敷の裏庭にて待つ。   黒髪 雫』


 と、丁寧な字でまるで恋文のような感じで書かれていた。

「ははは、こっちはなかなかに厄介なことになりそうだな。」

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