第98話 正妻×元許嫁。1
屋敷の質素だけど真新しくきれいな廊下を小さなメイドの案内で歩く。
私の名前は黒髪 雫。
大和帝国の軍人で階級は少尉だ。
実家は父が軍人の偉い人なのでワタシも軍では贔屓にされている方だろう。
それを悪いことだとは思わないが、それでも親の七光りだけで出世したと思われるより、私自身の実力で出世して見せたいと思っている。
――――だからあいつのことは尊敬しているし、嫉妬もしている。正直、複雑な心境だ。
複雑と言えば立場も複雑だ。
戦争が終わり、今後は平和になっていくことで軍の予算が削減され始めたのだ。
正直、私は時期尚早だと思うが、国の偉い人は内政に力を入れて国土の開拓に力を入れたいらしい。その為、他国と友好的に国交を結ぶため軍備を削減しているとみている。
それで舐められてまた侵略されたらという心配もあった。
しかし、そんなこと想定済みなのか軍の再編に当たって、兵や兵器開発を分散、また開拓分野に流用することで維持していた。
その影響で、私は新しい部隊に配属となった。
広大な未開拓の国土を開拓するために国は貴族制を起用、戦争で戦果を挙げた者やお偉いさんでも野心の強い者なんかを貴族として領地を与えて、国土を開拓させていくことになったのだ。
私はその中で皇帝陛下から特に贔屓にされている貴族の配下の騎士団に配置変換された。
それには文句はない。
表向きは貴族の私兵だが貴族も軍属であり、実質は軍人扱いだ。
任務も開拓民を守るための警備や未開拓地の測量などまっとうなモノ。
だが、上官が問題だった。
私には家が決めた許嫁が居た。
居た。そうだ、過去形だ。
そいつは何らかの不祥事を起こしたらしく、実家を勘当され、軍でも懲罰部隊に送られた。
これで私との許嫁としてはふさわしくないと向こうの家から破談された。
それ以降、彼とは話す機会があんまりなかった。
ウチの父は納得がいっていないのか私に彼との復縁を勧めてきていた。
その彼が先日結婚した。
彼が送られた懲罰部隊は実は軍の秘密実験部隊だった。
当時は彼がぐれて悪い仲間と遊んでいるように見えて、私は彼と会うたびに嫌味を言っていたものだった。
だが、その実態を知った今では私はそんな態度をとっていたことを後悔している。
彼等は戦争終結のきっかけとなった戦いにて、決死隊として敵軍に特攻を仕掛けることになったのだ。
もしかしたら彼はそこで死んでいたかもしれない。
そう考えると胸が痛む。
しかし、彼は死ななかった。
どころか、敵の指揮官を倒して捕虜にするという大手柄を上げたのだ。
正直、生きていてくれてうれしかった。
もう一度彼に会って謝りたかった。
しかし、彼は実家に戻ることもなく、彼とは会う機会も無いままに時がたち、突然彼が貴族になるという情報が入るとともに、彼と捕虜にした敵国の皇女との結婚が報じられた。
あぁ、終わったんだな。
そう思い、私は軍人として生涯を生きようと思った。
な・の・に。
私はその彼の元へと配属された。
出立前に父から「がんばれ。」と言われたので、間違いなく父の差し金だろう。
あとがんばれって何を頑張れと、不倫か。ほんとに何考えてるのだ。
そう思いイライラしていたので彼と会った時はかなり仏頂面だったと思う。
そして彼は私には何も言ってくれなかったのが結構痛かった。
しかしそんなことも言っていられない。
私は彼から呼び出しを受けた。
必ず1人で来いと。
案内された部屋に入ると彼はいない。
部屋には彼と結婚した女性が微笑みながら待っていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます