第77話 ウルトゥムの1日。2

「それじゃぁ今日も朝からヤリますか。」

 起き抜けにウルトゥムから挑発的な申し出があった。

「もちろんヤルぜ。手加減してやらねぇからな。」

「あら、ワタシだってガンガンイキますよ。」

 そう言って2人は服を着た。

 ――――何故服を着るのかといえば、それは昨晩愛し合った2人が服を着ないで寝ていたからだ。パジャマどころか下着も付けてはいない。

「それじゃぁやりますか。」


 松永の屋敷は結構広い。

 もともと悪魔からの対価としてもらったものだったが、先日、すっごい満足感をもらえたので増築しておきました。―――とのことである。

 今では十全の家族が住む本宅と、雇いの使用人と街の家屋ができるまでの住み込みの開拓者が住む別宅とにわけられるほどだ。

 (あの駄竜が家族扱いで本宅に住んでいるのは納得いきませんが。)と、ウルトゥム的に不満はあるのだが、それ以外は概ね満足している。

 十全とウルトゥムの2人は本宅の裏にある庭にやって来た。

「さあ、始めるか。」

「足腰断たなくしてあげます。」

「こっちのセリフだね。」

 距離を少し取っていた2人はいきなり急接近してぶつかり合う。


「毎日お盛んだねぇ♡」

 それを屋敷の窓から見ていた悪魔のウィズがつぶやく。

「仲睦まじいことはよいではないですか。」

 悪魔に答えたのはこの屋敷の執事を務めるヴォルテール。戦争で負けて捕虜になった際、十全の部下になることで命を免れた者である。

 彼のホントの主は別にいるが、十全を主人と仰ぎ裏切ることはないだろう。

「しかしあれが仲睦まじい姿☆とは笑いものじゃないかな♡」


 中庭では十全とウルトゥムの2人が激しくぶつかり合っていた。

 今もウルトゥムの腰に十全は激しく腰を叩きつける。

 ドッン!

 正面からのつばぜり合いから、素早く側面に廻っての当身である。

 そう2人は朝から剣の稽古にお盛んだったのだ。

 正面が開いたことで体が泳いだウルトゥムは側面からの当身に対処できずに姿勢を完全に崩す。

 その隙を突いてウルトゥムの首筋に十全の木刀が添えられる。

「まずは一本。今日は俺が先制だな。」

「くっ、いきなりキメらえました。なんですか今の動きは。」

「今のは違え踏みたがえふみてやつだ。踏み込む際に軸足を少し内側にねじっておいて、伸ばす際につま先を支点にすると動きがそれる、これに踏み込んだ足の膝を曲げるようにねじり込むことで、いなした相手にすかさず当身が出せるってやつだ。」

「なるほど、大和の剣術は細かいですね。ボリアなんてどれだけ力ずくで剣を振り回せるかが強さの基本でしたから。」

「いや、大和の剣術も最初は力任せだったぞ。それが「剣禅一如」、剣の道と禅、精神の修行が同じ道だと考えが広まって、細かな術理を扱うようになっていったんだ。」

「「剣禅一如」ですか。――――もしかしたら大和の人達が魔法を使えるようになったら、いろんな分野で革新が起きそうですね。」

「魔法かぁ。大和にも御伽噺なんかには出てくるけど、あくまでフィクションだったからな。ツィマット所長の親父さんがもたらした技術だけでも大きな発展だったし、他の国と交流が始まったら、ホントに色々できそうだな。」

「そうなるといいですね。」

「で、今日は終わりにする?」

「いえ、少々物足りないのでもう少し付き合ってください。」

 そうして2人はこの後も汗を流したのだった。

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