第25話 六覚顕聖が1人、黒髪 玄武。
大和帝国軍令本部。
ここは大和帝国の軍事をつかさどるピラミッドの頂点であり、皇帝とその直下を除けば現在最高の権力が集まる場所である。
その中でも帝都の防衛の指揮を執り、また自身も大和帝国最高戦力の六覚顕聖と呼ばれる力を持つ将の執務室は、主人の気質と相まって質実剛健な様子を漂わせている。
その冗談が許されないような空気の中に声が響いた。
「ボッキ大尉が参られました。」
「うむ、通してくれたまえ。」
あまりにもひどく舐めた名前に苦虫をかみしめながら、巌のような貫禄で答えた部屋の主人。
彼の返事を受けて重厚な木製の扉が両開きに、左右1人ずつを部下の兵士が息を合わせて開き、2人は向かい合って敬礼の姿勢で待機する。
2人の間を1人の男が歩いてくる。
男の後ろには3歩引いた右隣に一人の女性が付き従う。
男は扉をくぐり切る前に踵をそろえて敬礼を取る。
「招聘に与かりましたボッ…ボ、…ボ……ォゥ、
「構わんよ。ただの大尉で。」
部屋の主人はこれまた重厚な執務机についており、咥えた葉巻を口から離しながら男に無理に名乗らなくてよいといった。
「はっ、ありがとうございます、閣下。招聘に与かりました大尉一名とウルトゥム軍曹、ただいままかりこしました。」
「うむ、ご苦労。」
その一言を合図に男と女は主人のそばまで進み、ドアを開けた2人は部屋を出てドアを閉めた。
それから男は被っていた軍帽を脱いでわきに抱えてから、改めて敬礼をする。
「お久しぶりです。
「うむ、久しいな。しかしそんな畏まらずにパパと呼んでくれてもいいぞ。」
「――――――ぇぇと、閣下、自分が実家を勘当された時点で娘さんとの婚約は破棄されたはずですが。」
「だとしても、ワシはお前を今も変わらず義息子として誇りに思っているぞ。」
「ありがとうございます。大変うれしく思います。が、今はその為に呼ばれたのではないのでしょう。」
男の答えに黒髪 玄武は葉巻を咥えて、大きく吸ってから少し顔を曇らせてから煙を吐き出した。
「ふーぅ、今回呼び出したのはつい先ほどの件でだ。帝都郊外の砦を超えて、帝都内にボリア帝国の者と思われる敗残兵の侵入を許したこと、本来は我々で対処すべきことをお前に片付けさせてしまったと聞いてな。謝罪と礼を言うために呼んだ。」
「お心遣いありがとうございます。」
「……、それとな。今捕らえた者たちから尋問を進めているところなのだが、実際に対峙したお前の意見を聞きたくてな。」
「なるほど、それでしたら自分の意見ですが伝えたいことがあります。」
「聞かせてもらおう。」
「は。奴らは敗残兵というには行動に明確な意図を持って動いていたと感じました。恐らくは敗残兵ではなく―――
「それを装った正規の作戦行動だった。そう思っているのだな。」
「はい。」
「うむ。お前がワシと同じ考えで安心したぞ。これはつまり今後何かあるとすれば、お前の周りで起きると言えるわけだな。」
「遺憾ながら。」
「安心しろ。こっちでも対策を講じよう。話は以上だ。」
「それではこれにて失礼します。」
「―――あぁ、最後に一つ。」
「はっ?」
踵を返して退室しようとしていた男が掛けられた言葉に振り向くと、巌のような黒髪 玄武の満面の笑みがあった。
「ワシも後日のパーティに出席するので、プライベートな話はそこで存分にしようではないか。」
「――――――はい。」
男は最後に力なく返事をして退出した。
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