第26話 パレード?

俺は足早に軍令本部を後にして帝都での宿に向かった。


そこは軍の宿舎にある迎賓館―――――ではなくて、内裏府の貴賓館であった。


一応、俺は皇帝陛下より氏名を恩賜していただけ身である。


つまりは皇帝陛下の客人の立場となっている。


となれば、軍の宿舎ではなく内裏府に招かれるもので、畏れ多くとも光栄なことだろう。


そこに疑問はない。――――それが拉致同然に連れてこられたのでなければ。


軍令本部を出たとたんに陛下の親衛隊である禁杖隊ごんじょうたいに囲まれた時は死ぬかと思った。


禁杖隊は内裏、並びに禁裏の警備を行う部隊で全員が面紗で顔を隠している。


そして一人として人としての気配をうかがうことができない。


まるで幽霊のような不気味さがあり抵抗する気なんて起こらない。


幸いにも俺は危害を加えられるために囲まれたのではなかった。


ブッチャケ遅いから迎えに来ただけらしい。


つまりパシリだよな、―――いいのかこんな使い方して。


って、神輿で送迎だと。


やめて、恥ずかしい。都のみんなに見られてるじゃないか。


「おい、あの方はボッキ殿ではないか。」「なに、今都中で話題になっている『アノ』ボッキ殿か。」「あぁ、先の戦いでご活躍されたそうだ。なんでも敵の女大将を墜としたとか。」「ママー、ボッキてなにー。」「メッ、指をさしてはいけません。不敬になりますよ。」「あぁ、なんてご立派なのでしょう。」


うぅ~、皆さん称賛してくれているんだろうけど俺には貶されているようにしか聞こえない。


これじゃぁ晒しものじゃないか。


ぎゃ~、大通りに出た~。


このまま正門から大皇殿に連れていかれるのかよ。


マジで泣きたい。泣きたいけどここで泣いたらそれこそ恥をさらすことになる。


何とか堂々として居なければ。


「「「ボッキ様ばんざーい。ご立派様ばんざーい。」」」


心が折れそうです。


てか、オマエらわざとだろう。


何とか正門を抜けて内裏に入ったことで衆目からは解放された。


そのまま内裏の貴賓館に連れていかれた。


部屋にはウルトゥムも一緒に通された。


「お疲れさまでした、ご主人様。」


「本当に疲れたよ。最後の神輿が一番疲れた。てかなんでウルトゥムは神輿に乗っていないんだよ。」


「ワタシはそのような立場にございませんので。むしろ首輪をつけて見せしめに引きずられるぐらいです。」


「………いいか、やるなよ。」


「はい、先ほども首輪をつけようとしたら顔を隠した方々から止められました。」


少しシュンとしたウルトゥムの表情からやりたかったのだろうか、何となくあの人間味がない禁杖隊の者たちがおろおろしてたんじゃないか、と思うと少し溜飲がさがる。


「しかし、ご主人様の国は変わってますね。」


「そりゃぁ種族も文化も違うんだから変わって見えるだろ。」


「普通は戦争に勝ったら敵を鎖につないで引きずり回しながらパレードをするじゃないですか。」


「お前らみたいな野蛮人と一緒にするな!」


「ソレが自国の英雄を晒しものにして辱めるとかイカレ―――もとい、変わっていますよ。」


「お前から見ても俺って恥ずかしい状態だったか。」


「いえいえ、大変ご立派でしたよ。」


「ヤメロ!」


俺はついに泣いた。

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