君色

四季

君色

 私、神宮じんぐう 穂摘ほづみは他人が私に対して思っている感情が色で分かる。待ち行く大抵の人は薄鈍うすにび色。私へ何の感情も持っていないからだ。浅葱あさぎ色になったら要注意。静かな怒りを向けている。桃色はもっと要注意、恋というか欲情している。電車の中で桃色おじさんにあったら全力で車両を変えなければならない。

 乳白色は無関心、感情をもっていないのではなくて知ってるけれど興味がない。私の親が私を見る時の色だ。


 色がわかるのは距離が10mくらいになったら。その人全体にもやっとしたイメージが広がる。肌と肌が触れ合うくらい近くなるともっと色が鮮明になって、より細かい複合的な事がわかる。例えば浅葱色の後ろに桃色が隠れているのは、私が告白を振った男子生徒の色だ。

 自分でも見た目は悪くないと思う。ここは親の遺伝子に感謝している。頭は人よりも良い。これは良いと言うよりもこの感情が色で分かるおかげでよくなる方向で立ち回れているからだ。おかげで学校でも近所でも評判のいい“良い子”の立ち位置に付けている。


「穂摘―!帰りどっかよってこー!」

 授業が終わり、帰り支度をしていると急に後ろから急に抱きしめられる。頬と頬が触れ合って若葉色に胸がいっぱいになる。若葉色は友情の色。

「玲奈!びっくりしたー!」

「えへへ、ダメだったー?」

 くりくりとした愛らしい目。彼女はびっくりするくらい純粋な色をしている。触れ合って奥の方まで色を見ても単色の繰り返し。きっとこんな純真な子が“本当の良い子”に違いない。魔法地味た私の能力なんて使わなくてもなれる本物。

玲奈れな~。はやくいこ~。」

 教室の外から玲奈の友達が声をかけてくる。こいつは以前までは仲良くしていたが3年の先輩を振った次の日から紺碧色になった。多分あの先輩がすきなのだったのだろう。あんな桃色野郎だったらいつでも告白したら付き合えるだろうに。面倒な付き合いはゴメンだった。

「ごめーん。今日は家に早く帰らないと怒られちゃうの!」

「ええ~。じゃあまた今度いこうね~。」

 嫌な色のやつと付き合うのも面倒だが、実際は街へ出かけると色の波で酔うのが嫌なのもある。街で酔っ払った人間なんて最悪だ。ペンキをぶちまけた上に墨汁を塗り込んだような色しかない。それか桃色。ホントサイテー。あとは黒色。多分鬱になって誰に対しても真っ黒になってしまっている。電車を待っている時にあの色を見かけると自殺しないか気が気じゃなくなる。助けたところで何もしてあげられないので目をつむることしか出来ない。

 ただ、こんな能力のおかげで適当な相槌の腕と品をよく見せる立ち振舞だけは上手くなってしまった。適度に、適当に、生きていければいい。


 #


「お姉ちゃん!おかえり~花梨たちとあそぼー。」

 家の近くに差し掛かった時、近所の子どもたちが遊んでいる公園で呼び止められる。

 児童館で一緒だった子どもたちだ。いまは小学校の中学年~高学年くらいだろう。

「いいよ~。今は何しているの?」

 子供は良い。玲奈と同じように純粋な色を保っている。大抵は菜の花のような黄色。友愛なのか敬愛なのか、私に懐いてくれている色だ。

「えっとねーかくれんぼ!」

「あはは、またやってんのー?何回やっても飽きないねー。」

 広い公園とはいえ毎度のようにやっていれば隠れる場所なんてもうない。鬼になったら少し忖度してあげてゆっくりと見つけてあげよう。私が隠れる番になるとさすが無理だ。身体がもう大きすぎる。

「穂摘!また学校で遊んでこないで帰ってきたのか?」

陽向ひなた!うるさい!私にも友達はちゃんといるの!あと高校では学校では遊ばないの!」

 生意気な声をかけてきたのは小学6年生の男の子。名前は陽向。こいつだけは私のことを敬う気配はまったくない。触れ合っても若葉一色。同年代の友達としか絶対に思ってない。まったく腹立たしい。

「今日はずっと穂摘が鬼な、ちゃんと見つけてくれよ。」

「ちゃんと穂摘お姉ちゃんと呼びなさいー!」

 きゃっきゃと騒ぐ子どもたちを追いかけ始める。これじゃあかくれんぼじゃなくて鬼ごっこだ。陽向は生意気にも足が速いので私の革靴じゃあ追いつけない。

「くっそおぉ。」

 大人が見ていたら品行方正に過ごしてやってもいいが、今は童心に帰り精神年齢を同調させる。革靴と靴下を脱ぎ払い、子どもたちを追いかける。

「あははっ、穂摘~。こっちまでこいよ!」

 陽向以外は全員捕まえたがあいつだけは捕まえられない。

「陽向!がんばれ~!お姉ちゃんも頑張れ~!」

 子どもたちが大きな声で彼へと声援を送る。我ながら大人気ないが全力で追いかける。もうスカートが翻ったて気にしない。この場所は若葉色の草原に菜の花が咲き誇るような花畑のような色をしている。数少ない心の安寧だ。風が吹き抜けて木々が鳴き声のように擦れあって良いハーモニーだ。

「……!」

 猛ダッシュを決め込んで、影に隠れた陽向の側面を攻める。彼の色が見えているので影に隠れたってこの距離だと無意味だ。あれ、もしかして私暗殺とか向いてる?

「ああー!っくそー!」

 見事に陽向の身体担ぎ上げて勝利の杯のように高々と持ち上げる。陽向の色が紅色に染まっていく。ふふ、恥ずかしがっているな。

「私の勝ちー!」

 彼を降ろしてあげてしゃがみこんでVサインをしてやる。

「次だ次!3回勝負だからな!」

 もうヘトヘトにちかいが子どもたちの無限大の体力に一度付き合い始めたらきりがないのは元から分かっていた。諦めて夕暮れが近くなるまできゃっきゃと遊び込んでいく。

 結局勝負は2勝1敗。私の勝ち。



「おねえちゃんまたね~。」

 子どもたちが大きく手を降って家々に帰っていく。私も泥だらけになった服を後悔しながら大きく手を降って彼らを送り出す。

「穂摘。またな。」

「およ、陽向、帰ってなかったの?」

 珍しい色を彼がしていた。瑠璃色で夜空のような色だ。実際の空も瑠璃色に朱が刺して夕暮れが迫っていたので気がつけなかった。

「今日は、ありがとう。」

「なにー?どうした?」

 彼がこんな色になるのは滅多なことじゃない。しゃがみこんで彼の視線の高さと揃えてあげる。

「実は来月には俺、引っ越して転校しないといけないんだ……。」

「あれぇ。そっかぁ。寂しくなっちゃった?」

 両の頬を包み込んで小さな頭を抱きしめる。肌が触れ合うことで彼の色が飛び込んでくる。この夕暮れと同じ薄暗い色が段々と朱色に染まっていく。まるで時間が巻き戻って太陽が帰ってくるように。

「……。そうだよ!」

 涙目になった彼の目尻に溜まった涙をハンカチで拭いてあげる。夕暮れに突然振る狐の嫁入りのような、朱色のキャンパスに水色の水滴がついていく。ぎゅっと抱きしめて寂しくなくなるように彼の心の色を取り戻していく。

「穂摘…お姉ちゃんは何でも分かるんだな。大人になるとそうなれるのか?」

 涙声で彼が聞いてくる。

「お姉ちゃんは魔法使いなの。陽向だけじゃなくて皆の心がちゃんと分かるんだよ。陽向も大人になったらもしかすると分かるようになるかもね……。」

 少しだけ嘘を付く。私は物心がついた頃から色が分かっっていた。言葉を無くして時間が少し流れる。

「うん、大丈夫なったね。」

 彼の心の色はきちんと明るい一色に染まった。涙はちゃんと出なくなっている。

「すげえ。本当ちゃんと分かるんだ。」

「でしょー。お姉ちゃんのこと見直した?」

 胸をはって、指先を彼の鼻にあてて偉そうにしてみる。これをするといつも彼は無気になって対抗してくるのが常だったが、今日は違った。

「ああ、穂摘のこと見直した。」

「エラソー。……ちゃんと向こうでも友達いっぱい作るんだよ。」

「多分大丈夫。」

 陽向の正確なら問題はないだろう。きっと大きくなって高校生にでもなれば身長も伸びてさぞイケメンになるだろう。そうすればモテモテになるくらいの見た目はしている。

「偉い偉い。いいこだね。」

 立ち上がって彼の頭を撫でる。朱色一色だった彼の色は少しだけ様相を変えていく。紅赤だろうか。単色ではあまり見たことがない色だ。

「穂摘、俺、穂積の事が好きだ!」

 私自身の色は見たことがないけれど、きっと鳩が豆鉄砲くらったような色をしているはずだ。まったくわからないけど。

「あはは。私も好きだよー。」

 わしゃわしゃと頭を撫でてあげる。

「違う、本気だ!」

「ふーん。じゃあ、高校卒業したら私のこと迎えに来てね。私はクールなイケメンが好きなの。」

「いいよ、待ってろよ!絶対に待ってろよ。」

 彼は私の腕を振り払い、家の方角へ駆け出していく。大きく手を降って夕暮れの太陽の光の中へ消えていった。私も手を振り返して、じっと、ずっとその後姿が見えなくなっても見守っていた。


 #


 こそこそと家の玄関を開けて汚れた服を洗濯機にかけていく。

「連絡もなしに遅いじゃない。穂摘。」

「母さん。ちょっと遊んでて忘れちゃった。ごめんなさい。」

 乳白色の家は嫌いだった。小言を向けられているが、多分私の方を見て言ってない。世間体だろうか、気にしているのは娘のことじゃない。

「いいわよ。近所の子どもたちと遊んであげているんだってね。怪我させないでね。」

 そう言って母は自室へと消えていく。扉がしまったことを確認して思いっきりあっかんべーをしてやる。

 父は母には頭が上がらないし、残業続きで家には殆ど帰ってこないし。娘の私との距離感を取りあぐねていくのか乳白色にどんどんなっていっている。ここでは誰も私に興味がない。過ごしやすいともいえなくはないが、安寧とは程遠い。

 夕食の惣菜を食べた後、自分の部屋ヘと帰る。家着に着替えたらスマホを取り出してベッドに転がり、LINEの通知を確認する。玲奈とさっきの友達がカラオケにでもいったのだろう。隣の部屋の男子生徒がカッコいいだの、店員がクソなどいいたい放題だ。スマホのメッセージは苦手だ。相手の色が分からないから、補助輪をなくした自転車のように安定しない。間違った返答をしないかいつも不安になる。

 別の友だちからメッセージが届く。この前にはっきりと振ったはずの先輩からもう一度やり直したいとのことらしい。外堀から埋めていくその姿勢すら嫌いだ。LINEブロックじゃ足らないのか。やんわりと別に好きな人がいると伝えて断ってもらうように依頼しておく。この能力をもったまま誰かと付き合ってふれあい続けることができるだろうか。初めはよくても、私の両親のように冷たい、きっと鈍色か浅葱色の関係にならないだろうか。それとも私が気を使い続けて、相手の奴隷のように色を整えて行かないと行けないのだろうか。

 いづれにしても苦痛だ。付き合うのなら純粋な人がいい。

“穂摘のことが好きだ!”

 そう、陽向のような。あれくらい真っ直ぐな人がいい。私は年上好きなので彼は対象外だが。


 #


 大学生になっても高校の頃と様子は変わらなかった。目立たないようにメイクを落ち着かせても髪の毛の色を黒のままにしても、邪な色をした男どもとそれが気に食わない女達から逃げるように、きれいな色の女友達と仲良くしながら教授たちにはきちんとよく思われるように勉強していく。

 大学の勉強は楽しかった。理系の道へ進んだが数式は万国共通の普遍な言語で、物理の実験は再現がすれば感情と向き合うなんかよりもずっと楽しい。段々と上手く立ち回っている中でも独りに近づいていく気もしていたが、没頭してしまった。


「大学院には進まないのか?」

 ある日進路面談で担当の教授から聞かれる。

「ええ、家にも余裕はそこまでないので。」

「奨学金とかあるんだけどなあ、キミならきっとなにも問題ないんだが……。」

 これも小さな嘘。家には大学院にいけるくらいのお金はきっとある。ただ、両親を説得するのが面倒だ。奨学金を使って進む未来もあったが、自分自身がすでに抱えている負債のお多さを考えるともっと将来がもっと嫌になりそうだったから逃げたかった。

「わかったよ。じゃあせめて推薦でいい会社へ入れるように一緒に頑張ろうか。」

「わかりました。よろしくお願いします。」 

 学生の面倒見が良い先生を選んで良かった。彼の色は紫色。ちょっと難しいけど私のことをちゃんと気遣って心配してくれている。隣の無関心教授や女子ばっかり集めてるピンク野郎と比べると仏のようだ。


「はぁー。就職とかめんどくさー。」

 帰り道の駅前で少し大きめの独り言を出す。周りに聞こえないかなんてどうでも良かった。商店街へと続く雑踏には様々な色がひしめいている。なぜかその中でも目についたのはロータリーのベンチに座る、ギターを持った女子と男子生徒だ。お互いを見つめ合って話に興じている。私には鈍色にしか見えないが、もしもお互いの色を見ることができるのならお互いが真っ赤に見えるだろう。あそこの境地にたどり着くまでには色々な感情をすり合わせて、お互いの気持を整えていく作業が必要だと思う。 

 その光景に目についたのはただの嫉妬だと気がついて自分が嫌になる。

「はぁー。付き合うとかもめんどくさー。」

 今度の独り言は大きすぎたようだ。ベンチの二人がこちらをちらっと見ている。二人の色は赤紫一色。純粋に心配されているのかともうとさらに鬱になりそうだ。


 #


「はいカンパーイ。」

「カンパーイ。」

 時間はさらにたち、私は23歳になっていた。就職を無事に終えて、ちょっとブラック気味のメーカの営業をしている。先輩たちに酌をしながら気を使い続ける。

「彼氏とかはいないのか?」

 はいはい、でたでた。課長から聞かれたので答えないわけには行かない。

「私彼氏はいないんですよ~。」

 今までいないとか言うと面倒くさそうなので言わない。というよりそろそろ一度もいないのはヤバい気がしてきた。会社でミスするよりもずっとヤバい気がする。

「もったいないなぁ。隣の営業の加藤とかダメなのか。」

 はい、セクハラー。なんていえたら良いのに。

「私にはもったいないですよ~。加藤先輩かっこいいから~。」

 本当は女遊びしている感が全力で出ているので勘弁してほしかった。というか、彼からも高校の時の先輩みたいにアタックをされている。また外堀を埋めてくるのかと思うと気が滅入る。高校の3年間だったらかわし続ければ良いが、会社になると離れられうまで何年かかるかわからない。

「そうかぁ。まあまあ、あんまり言うとセクハラだな。ちゃんと飲むんだぞ。」

 それはセクアルハラでーす。言いたいこともいえない。こんな世の中……。ただ、お酒には強い様で今まで酔い過ぎたことはなかった。適当に先輩の話に相槌を打ちつつ夜が更けていく。

「神宮さん。隣良いかな?」

 みんなが席のローテーションを初めた頃にさっきの加藤が私の隣へとやってくる。追い返すのも角が立つので同じ様に適当に相槌をうって終わらせようとする。

「ええ、どうぞ。加藤先輩とも飲んでみたいです~。」

 帰れ。消えろ。このピンク。

「神宮さん、お酒ないね何飲むの?」

 もう逃げられないことを悟った私はカクテルを頼んでさっさとこの時間が終わることを待つことにした。

「カンパーイ。」

 もっともっと夜が更けていく。


 #


「大丈夫?歩ける?」

 頭がガンガンする。眠気もいっぱいしてきた。これは失敗した。完全に酔い過ぎた。

 加藤先輩に担がれて駅へ向かうのは釈然としないが足元がおぼつかない私には断るすべがなかった。

「ああ、ここまでで大丈夫ですー……。」

 ああ、だんだんと意識が消えていく。

「ちょっと休んでいこうね。」

 気がついたらネオン街の裏側のホテル街に連れ込まれている。こうやって男女の大人になっていくのかと思いながら身体はもう抵抗できない。薬でも盛られてるんじゃないんだろうか。手を取られているので触れ合って色が見えるはずなのに、集中できない。心が聞き取れなくなっていく……。ああ、こんなもんなのかなー。人生って。



「穂摘。迎えに来たぞ。」

 凛とした浅葱色の声が響く。焦点の合わない目線の先に強い色をした男の子が立っている。身長は180cmあるかもしれない。バスケットボールでもしていたら似合いそうだ。

「神宮さん、知り合い?」

「はえ?」

「穂摘を看病してくれてありがとうございます。あとは連れて帰りますノデ。」

「え、あ、おい。誰だお前。」

「ほら、帰るよ穂摘姉ちゃん。」

 この声には聞き覚えがない。私にも弟がいた覚えはない。夢心地の中、先程と同じ様に肩を担がれて歩いていく。

「陽向だよ。まったく覚えてないのかよ。」

「陽向ぁ?あぁー。えぇー。どうしてここにぃ?ていうかイケメンー。」

 わしゃわしゃと頭を撫でて見せる。もう私の身長では彼の頭には届きにくい。

「やめろやめろ。俺はもうガキじゃないんだから。」

「なんでココにいるのぉ?」

「……。」

 押し黙ったまま、家の方角へと歩いていく。電車はすでないのでゆっくりと帰るしかない。


「俺、穂積が好きだ。」

「はぁ?」

「あの日、引っ越す前に穂摘に抱きしめられてから、他人の色が分かるようになった。何言ってるか分からないかも知れないが、俺が好きになった人の色が分かるようになった。」

 私の能力と同じだろうか?

「ずっと離れていたけど、穂摘の色はずっと見えてた。悩んでるときは群青みたいな色しているし、嫌がってるときは汚い赤だ。」

 私よりも限定的で、でもきっと距離が長いのだろうか。

「穂摘には嘘つきたいくないから言うけど、他の女の子も何度も好きなったことがある。でもあいつら最初は綺麗な色してるのにすぐに色が混ざり合って気持ち悪くなる。問い詰めたら大抵ほかの男と浮気してやがる。」

「酒に酔ってたら汚え色になるし。ろくでもない。」

 私がかつて見ていた光景と同じなのだろうか。

「諦めようとしていたんだよ。さすがに7年越しの恋なんて重いだろう。それに穂摘だって俺のことなんて忘れてるって知ってたし。」

 何も答えられない。

「でもいままで単色でキレイだった穂摘の色が汚え色になってんの。また酒飲んでのかと思ってたら。墨汁ぶちまけたみたいな色になって、灰色になったの。絶対ろくでもないことしてんだろうなと思ってたら。勝手に身体が動いてた。電車に飛び乗って路地裏にきたらいけすかねえ男とラブホに入ろうとしているし。」

 彼の横顔がずっと怒っている。能力がほそぼそと戻ってきた。浅葱色の彼が真っ赤に染まっていく。

「好きなんだよ。ちゃんと穂摘が好きになった相手と付き合ってるんなら諦める。でもこんなしょうもない形で誰かとやるくらいなら、俺と付き合ってくれよ。」

「…………。陽向、それは格好つけすぎ……。」

「うるせー。好きなんだよ。ちょっと浮気したことあるけど、ずっと穂摘が好きなんだよ。」

 朱色に茜色。あの日見たベンチに座る男女はきっとこんな色をしている。

「ちゃんと大人になっただろう。身長だってもう追い越した。まだ18だから働いてないけど、大学でたら養える。7年まったからいいだろう?」

「……。約束だったもんねえ。大きくなったらねって。……。」

「良いのか?」

「プロポーズはこの100倍格好付けてね。あと私が酔ってない時……。」

 私も桃色なんだろうか、赤色だろうか?自分の色は相変わらず見えないけど、隣の彼が綺麗な夕焼けみたいな色をしている。きっとこんな心になりたかった。

「よっし。じゃあ、まずは家に帰るぞ。いっぱい水のめよ。あと寝ろ。」

「それが年上の彼女に言うセリフかなー。」

「昔はかっこよかったのに。そんなだらけるからだ。」

「うるせー。」

 こんなこともあるなら人生も良いかも知れない。ずっとずっと早く迎えに来てほしかっただけなのかも知れない。思っていたよりも私はずっと子供で、頭がわるいお姫様だったのかもしれない。


「……私も好き。迎えに来てくれてありがとう。」


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君色 四季 @siki1419

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