勇者のいない町

山原がや

勇者のいない町①

第1話 勇者見習い、町に来る


一人の勇者見習いが町にやってきた。いかにも若者、体に合わぬいかつい鎧をがしゃがしゃと鳴らし、砂埃を作りながら道を歩く。物珍しそうに周囲を眺め、

「家がでけぇ。何人人がいるんだ?ここは」

とつぶやく。

すれ違った他の旅人たちが勇者見習いを振り返って噴き出す。

「おいあいつ見ろよ、あんな古い装備で……」

「駆け出しも駆け出しの勇者見習いだな。それとも、ガキが家にあったお古で遊んでるんじゃねーか」

そんな会話が交わされているとは知らず、視線を感じた勇者見習いは足を止めた。

「もしかして……このただならぬ見た目に他の勇者たちが恐れおののいてんじゃねぇーか?参った参った、どこに行っても注目の的だ」

と上機嫌。

どうやら少し思い込みの激しい性格らしい。

町人が、勇者見習いの鎧から出る砂埃を不機嫌そうに手で払った。

勇者見習いはリズムよく歩きながら、町を見て回る。

その様子を、路地に構えた占いの屋台からじっと見つめる少女がいた。


**


勇者見習いは一軒の旅籠屋にたどり着いた。

女将のポサダがゆったりとした口調で出迎え、

「この町にはどんな御用でいらっしゃったの?」

と尋ねる。勇者見習いはがしゃがしゃと揺れる鎧から小さな砂埃を床に落として答える。

「この町に来たんだから、モンスター退治、勇者になるために決まってるだろ!

とにかく早く一人前になってこの名をたくさんの人に広めたいんだ。

おかみさん、もしここいらで一番強いモンスターか魔王の手下がいるところを教えてくれ!」

するとポサダはにっこり笑ってあらあらと言いながら、勇者見習いをそのまま扉へと誘導する。

「えらいわねぇ~がんばってねぇ~。部屋は用意しておくけど、まずはその、きったない鎧、きれ~いにしてからまたいらっしゃいね。今度床を汚したら自分でお掃除してもらうわ~」

ポサダは扉を開けて勇者見習いを外に放り出す。

そして力強く手をはたいて砂を払うと、並び立つ向かいの家の一つを指さし、

「あそこ、武器屋のアルマさんがいるわ~。冒険に何が必要かもい~ろいろ教えてくれると思うから、いってらっしゃい、勇者のタマゴさ~ん」

とにっこり笑って扉を閉める。勇者見習いが軽く鎧をゆすると、まだ砂埃が宙に舞う。

「親切にどーも。……そうだよな、勇者に必要なのはまず武器だ!」

そう言って勇者見習いは足取り軽く武器屋へと向かった。

その背中を、旅籠屋の窓からポサダがじっと見つめ、やがてカーテンを閉めた。

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