第12話兄貴の夢

4月 30日



 

「いてて」

 翌日目を覚ますとかなり足の方に来ていた。歩くたびに足がずきずき痛む。


 それを心配そうに覗き込む兄貴。

「昨日は朝いなかったな。走り込んでいたのか?」

「いや、それがさ」


俺は昨日のことをかいつまんで兄貴に話した。兄貴は大きく首を振ってリアクションをした。そして。


「それ、いいかもな」

「は?何がだよ?」


「お前らの関係。次の小説の話の題材にいい感じだ」

「俺たちのことを題材にするのか?」


「まあ、直接はお前らのことは書かないけど、コロナで失職した主人公が、ゴールデンウィーク中鈍った体を動かすために散歩に出かけたら、偶然知り合いの幼馴染みと遭遇する。いい感じだ」


「おいおい。俺はいいけど、まいちゃんの方に確認とれよ」

「大丈夫だ。直接お前らを描くわけではない。あくまで架空の人物として描くから」


「それでも、俺の方から、まいちゃんに連絡とるから、それでいいよな?」


「まあ、いいだろう」


 すぐさまクロスでまいちゃんに連絡をとった。


 まいちゃんは、道隆さんなら別に構わない、と言ってくれた。まあ、なんにせよよかった。


 そして、今日は筋肉痛が酷くて散歩できそうにもないと書いたら、まいちゃんは、今日はお父さんの番だから別にいい。お体気をつけて、と書かれていた。


「さて・・・・・」

「兄貴」

「なんだ?」


「鉛筆ある?」

「ん?んんん!?鉛筆・・・・・」


「絵を描こうと思って」

「ちょっと待ってくれ」

 兄貴は物置をがさこそ探し出した。


「あったぞ」

 そして、一本の古ぼけた鉛筆を俺に渡してくれた。


「ありがとう、兄貴」

「鉛筆削りとかないからオンラインショッピングで買った方がいいと思う。なんで、絵を描こうと思ったんだ?」


「ああ、それは・・・・・」

俺は昨日のことをかいつまんで話した。それに兄貴を黙念と聞いていた。


「というわけなんだ」

「それならiPadの方が良くないか?」


「いや、まあ適性を・・・・・・・」

「でもさ、俺思うんだけど、イラストとか描く人はカラーも勉強しないといけないわけだろ?」

「ま、まあね」


「それなんだけど、適性、と言っても2、3ヶ月ぐらいでわかるというものじゃないと思うんだ。やっぱ、2、3年は見極めるのに時間がかかる。声優の養成所に通うのは僕は賛成だな。やっぱりさ、養成所に通わないと適性があるかどうかわからないから。でも、本気で自分の合った転職を見つけたいなら、イラストと声優の勉強両方同時にやってバイトもするという覚悟が必要だと思う」


「兄貴」

「なあ、たかとしよ。僕が小説を書き始めて、まともな小説をかけれるようになった期間は何年だと思う?」


「5年?」

「10年だよ。10年かけてようやく自分としていいものをかけた気がするんだ。それでも周りは全く評価してくれてないけどな」


「!」

「貴敏。確かに世の中は天才というようにそれをやり始めてから一気に開花する人もいるけれど、普通の人は努力で才能を開花させるしかないんだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「夢に向かって挑戦することも大事だよ。でも、夢をモノにすることはそんなにたやすいことじゃない。僕が言えるのは一生懸命がむしゃらに3年間努力し続けなさい、ということだ。何、27だったら、まだやり直しは聞くから」


「兄貴は今の自分の道、後悔していない?」

 そういうと兄貴は、フッ、と笑った。


「してないね。俺には夢があるから」

「何?」


「小説で世界を少し良く変えること。その夢のために働いているから後悔はまるでしてない」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

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