第3話本田舞花との再会
4月 27日 月曜日
「暇だ」
ベッドに寝そべりながら、おもわず独りごちる。一応、コロナの影響でステイホーム習慣(しゅうかん)となっているが・・・・・・・。
「それでも暇だ」
また言葉が漏れ(もれ)出した。俺はまだ実家暮らしだからいいものを、アパートとか住んでいる人は大変だろうな。こうも外出自粛だったら、人と合わない職業や、パソコンのオンラインで住む仕事ならいいけど、俺のような接客業だったら、普通に考えて切られる。
今はまだ暇だと言っている俺はひょっとしたらすごく幸運な人かもな。
あれから散歩は続けている。今朝も散歩してきた。自分でもこうした習慣ができるのは意外だった。
「ま、やめるかもしれないけど」
三日坊主ではないけれど一週間したらやめるかもな。
「しかし、どうすっかな」
それは仕事のことだ。ゴールデンウィークは職探しはしないにしても、いつまでも無職というわけにはいかない。
「ま、先のこと考えても仕方ないっぺ。とりあえず、コーヒー買いに行こう」
そして、俺は家を出た。
この街、宗堂には最近できたばかりのコンビニがある。俺からの家でも徒歩で行けれて何かと重宝している。
「しかし、よくこんな辺鄙(へんぴ)な場所に作ったよなぁ。ここ、田んぼしかないぜ?」
ま、キリンビールの工場もあるが、しかし、なんでも店員さんから聞いたところ、あの工場も潰れてしまうらしい。居酒屋に提供するビールが提供できないのだ。居酒屋自体がなくなるから。
「本当に劇的な変化だよなぁ」
そうこうしているうちにコンビニに到着した。ほら早かっただろ?
さてと、目当てのコーヒーを・・・・・・・・おろ?
「だから、お母さん、そうじゃないって。こっちの抹茶パフェがいいの。抹茶団子じゃなくてね」
「どっちでも同じだと思うけど?」
「全然違う!」
紙パックコーヒーを買いにデザート欄のところにきてみたら二人の女性が言い合いをしていた。そして、俺はそのどちらも見覚えがある。
「あの、本田さん」
俺が話しかけると二人はこちらをみた。女性、おそらく娘さんの方は俺の顔を見ると思わず目を下にした。
逆に本田のおばちゃんはにこやかな表情をする。
「あ、こんにちは。貴敏くん」
「はい、こんにちは。そちらのお嬢さんは?」
その娘を僕は知っている。昨日散歩で犬に引きずられていた女性だ。
それに本田のおばちゃんがビックリした。
「何言っているのよ。彼女が舞花よ。ほら、舞花、挨拶なさい」
舞花、俺の幼なじみはおずおずと俺に挨拶をした。
「本田、舞花です。よろしく」
「あ、よろしく、藤原貴敏です」
幼い頃は一緒に遊んでいたし、小中高も一緒だったけど、なんとなく俺たちは気まずそうに挨拶をした。
やっぱり、幼い頃に遊んでいたから、再開したら、はい、友達です、というわけにはいかないよな。
チラッと、舞花さんの服装を見てみる。身長は高く、160ぐらい、ピンクのカットソーに白いフレアスカートを履き、腰にまで届く黒髪のロングヘア。しかし、髪はちょっとボサボサ感がある、それと胸はあんまりない。しかし、やはりそのダイヤモンドのような美しさは隠し切れていなかった。改めて見るとすごい美人だということがわかる。
そりゃあそうか、今の時期は美容室に行けれないもんな。
そして、俺たちは無言になる。久々に再開した幼なじみだというのに、ろくに話せない、いや、話すことができない。
そう、もじもじしている俺たちに突然おばちゃんが言った。
「ねえ、貴敏くん。何か欲しいものがある?おばちゃんが買ってあげようか?」
「え?」
申し出は嬉しいのだが・・・・・・・・・。
「いや、遠慮しときます。コロナの影響で家計が苦しいと思いますから・・・・・・・・」
そういうと、おばちゃんは猫の目をして、バンバンと僕の方を叩いた。
「もう!そんなの言いっこなしよ!300円ぐらいなら奢って(おごって)あげるから!」
「じゃあ」
俺はカゴを持って、紙パックのコーヒーを入れた。
「これを」
「うんうん、いいわよ。舞花は抹茶を買うんでしょう?」
「パフェね」
舞花さんがパフェをカゴに入れる。
「私はシュークリームにしよう」
それも入れ、おばちゃんがレジにむかう。
舞花がこっちにやってきて小声で話す。
「ごめんね。私のお母さん、強引で」
「いや、大丈夫」
それからまた無言になる。レジは結構混み合っていた。
「なあ」
「うん?」
俺はなんの気もなくいった。
「メアド、交換しないか?俺ってさー。今まで宗堂で暮らしていたんだけど、お隣さんのこともわかっていなくてさ。なんか恥ずかしいんだよね。だからさ、お互いのことをさ、もっと知りたくて。いや!これは決してやましい意味で言っているわけではなくて!」
それに舞花さんはクスリと笑った。
「いいわよ。でも、それならクロスにしようよ」
「ごめん、俺クレジットカード持ってなくて、クロスはダメなんだわ。ミカドの認定ができなくてさ。あれ、認定ができないと不特定多数の人たちのIDを交換できないんだよな。だから、メアドでいい?」
それにフルフルと舞花さんは頭を振った。
「なら、電話番号を教えるね。私人とのやりとりは全部クロスだから、メアドだと商品とかいろんなものが来てしまうんだ」
「ああ、わかった」
「お待たせ」
俺たちが会話していると、おばちゃんがやってきた。
「はい、コーヒー。貴敏くん」
「ありがとうございます」
俺は一礼をしてコーヒーを受け取る。そして、コンビニを出るとすぐに舞花さんと携帯番号を取り合った。
それにやはりおばちゃんが猫の目をして覗き込んできた。
「あれあれ?電話番号、交換しちゃったの?」
「ええ、お隣さんなのに、俺たちお互いのことをよく知っていませんから」
「いいの?舞花?お父さんが悲しんじゃうよ?」
「もう!幼なじみのよしみで電話交換しただけなんだから、そんな意味はないって!いい加減にして!」
「ふーん」
そう言いつつ、おばちゃんはニヤつきを隠さなかった。それに一つため息をして、俺たちは帰っていった。
そして、俺の家の前。
「じゃあな」
俺は手で振って二人にバイバイした。
「じゃあ、またね」
「二人の結婚式には私たちを呼んでよね」
「お母さん!」
「はは」
これが、俺と舞花さんの正式な再会の場面だった。
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