昨日の敵は今日の友

「ちょっと どいてよ」


大竹さんが早乙女さんを睨みつける。


「ここは気に入らない人を

ひどい目に合わせる場所じゃないのよ。

しかも、私はA組。

あんたたちがこだわっている

クラスのカーストで一番上なの。

これでもなんか文句ある?」


早乙女さんに睨みつけられた大竹さん達は

顔を見合わせて、屋上を降りていった。


思わず力が抜けて座り込む


「ちょっ!大丈夫?」


早乙女さんが私を支える。


「零〜あの女たち出ていった?」


「行ったよー」坂中くんの声がした。


あ、もしかして桜沢くんも…


「凛斗はいないわよ」


そう、よかった。


これを聞かれたらどうなっていたか。


「助けてくれてありがとう。」


お礼を言うと心配そうな目で見られて


「涙目になってるわよ」

と言われた。


そうか、私泣いてたんだ。


自覚すると一気に涙が溢れでてくる。


結局、早乙女さんにつかまりながら

屋上を出た。


「零〜学ラン貸してー」

早乙女さんが坂中くんから借りた学ランを

見えないように顔あたりにかぶせてくれる。


そして

「話聞くよ」

と小声で囁かれた。


「零、私と福原さんサボるから、

適当に先生に言っといてー」

「了解」

早乙女さんに連れられてきたのは

中庭にある木の影。

校舎側もグランド側からも見えないので、

死角になっている。


ちなみに私はさっきからショック状態。

なんで、一生懸命勉強して、ぐったりして、

苦労して、入って学校なのに、

入った先でクラスカースト

っていうのに縛られなきゃいけないんだろ。

クラスが上ってそんなに偉いことなの?

次々疑問に思う。


「大丈夫よ。クラスカーストにこだわってる人、自己顕示欲強い人たち、大竹さんとか、そんぐらいの人達しかいないから」


落ち込んでいたことが分かったらしく、

慰めてくれる。


「というか大竹さん成績が少し悪くて

C から D に落ちそうになっているの

焦ってるらしいよ。

だからだよ。

そんなそんなきついこと言うの。」


さらにフォローもしてくれる。


早乙女さん、なんていい人なんだろう。


嫌な人。

と思っていた少し前の私が恥ずかしい。


「だからそんな溜め込まなくていいって。

泣いていいんだよ」


やばい…マジで泣きそう。




side美音

「大丈夫?」


いきなり号泣し始めた福原さんに尋ねると「早乙女さーん」と抱きついてくる。


大竹さんに相当傷付けられたらしい。


私は大竹さんを見ると、だから何?って思う。


モデルってって言ったって

プロで雑誌に出てるモデルではない。

ある雑誌に読者の中で応募した子の中から

載るアマチュアモデルだ。

まあ自惚れたくなるのはわからなくもない。


人気の読者モデルのうちの一人だし。


もうすぐ専属入りするって言われてるし。


男子達そんなこと分かっていないから

''ゆな様''ってチヤホヤしてるし。


だからっていったって、

自分の思い通りにいかない人を

取り巻きと一緒になって

傷つけるのはどうかと思う。


福原さんの他にも何人か気に入らない子いじめてるみたいだし。


私の胸に顔をうずめて泣いている福原さん。「大丈夫?」

再度声をかけるとコクンと頷き、

私の横に座る。


その姿がとても可愛い。


もちろん女子目線として。

「ありがとう」

と笑顔になるが、

目がめっちゃ悲しそうだ。


思わず

「元気出して」

と口にしていた。


「福原さん可愛いから私が凛斗だったら絶対好きになると思う。」


くりくりの目をまん丸にして驚いていた福原さんだが、やがてケラケラと笑い出した。


「やだ〜 ww

早乙女さんって意外と面白いんだね〜ww」


そう?

福原さんが可愛いのは本当のことだし。


「でもさ〜」まだ若干笑いが治らない福原さんが覗き込んでくる。


「早乙女さん。美音ちゃんって呼んでいい?

美音ちゃんの場合は浩ちゃん。

松本浩輝一筋でしょ?

あれ違った?」


美葉菜ちゃんが小首をかしげる。


「そうだよ」とか言えばいいのに


「悪い?」


冷たい言葉しか出てこなかった私。

可愛くないー。


でも、自分でも

顔が真っ赤になっていることが分かる。


「可愛い。照れてても美人は美人だね」

と言う美葉菜ちゃんの呟きが聞こえた。


でもね、


多分私の勘では、

浩輝は美葉菜ちゃんのことが好きだ。


私は逆に美葉菜ちゃんが凛斗に告白した時

何で凛斗?って思った。


やっと浩輝と同じ学校になることを

浩輝のお母さんから聞いて喜んだのも

つかの間、


浩輝の隣には

“福原美葉菜“という女の子がいて、

可愛い外見で一目で明るくて元気そうと

分かる笑顔で笑っていた。


絶対浩輝の彼女だと思ったら、

凛斗に告白して

浩輝だって十分イケメンなのに…


私のひいき目かもしれないけど美葉菜ちゃんの趣味を疑ってしまった。


事情を凛斗から聞くまでは、

凛斗の乗る電車にいた時点で

ストーカー化した迷惑な子だと思っていた。


大竹さんから美葉菜ちゃんを助けたのも、

私も大竹さん達みたいに

美葉菜ちゃんに

少し意地悪したいという

気持ちがあったからだ。


それは否定しないし、

なかったことにはできないけど…


「これ!」メモを押し付ける 。


「LINE の ID 。あとで連絡して。」


この子とはいい友達になれる気がする。


こんな私でも。



side美葉菜


「ありがとう。」


早乙女さんから LINEのIDを渡された時、

“バタン“ドアが開いて千晶が入ってきた。


「美葉菜ここにいた!大丈夫だった?

ごめんね気づかなくて…」


ここで早乙女さんに気づいて、

胡散臭そうに早乙女さんを見る。


「あなた、美葉菜に何やったの?」


大声で喰ってかかる千晶を慌てて押さえる。


「違う違う、

美音ちゃんは助けてくれただけだから。」

「そう。」千晶は私を見た。


そして、

「ごめんね。絶対、私のせい。

私が本当のことを

かいつまんで大まかに言っちゃったから

大竹さんに勘違いされたんでしょ。

本当にごめんね。」

頭を下げる。


「千晶のせいじゃないよ。

私がちゃんと説明できなかったのが悪いし

そのおかげで

美音ちゃんと友達になれたわけだし。

良いこともあったよー。」


美音ちゃんに悪いことをされていたわけではないと分かってほっとしたような千晶。


ここで美音ちゃんが、

「石井さんも

LINE の番号を交換してくれない?

もし良かったら、

友達になりたいなーって。」


「いいよ!よろしく。

あ、千晶って呼んでくれて良いから。

美音ちゃん!」

ニコッとする千晶。


私も笑顔でスマホを差し出した。

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