神さまとの伝言係はじめました

弓波 葵衣

虹のはじまり

第1話 はじまり

『雲の上にはね、いつも私たちを見守っている神さまがおるんよ』

『神さま?』

『そう、あんたもきっと……』


「ふわぁ」


 懐かしい夢、おばあちゃんが生きていた頃の。おばあちゃんが他界したのは、4年前のこと。ボケてもいなかったし、なんの病気も持っていなかったおばあちゃんが朝起きたら冷たくなってピクリとも動かなくなっていたのは衝撃的だった。


湊月みつき、早く起きて来なさい。電車遅れるわよ、行ってきます」


「行ってらっしゃーい」


 私の母は、朝早くから出勤する。シングルマザーでは、ないけれど父の稼ぎがあまりよろしくないらしい。母も父も、勤勉そのものなのにこうして2人して朝から晩まで働かなくてはならないなんて。私も大人になったらそうなるのかと思うと気が重い

 母の焼いてくれた目玉焼きを味わいながら、時間を確認する。


「えっ! もう6時電車が行っちゃう! 」


 悠長に、目玉焼きなんか食べてる場合ではなかった。どうしてもっと早く時間を確認しなかったのだろう。大急ぎで鞄を背負い、


「行ってきます」


 誰もいないが、昔からの習慣でそういうと鍵を閉める。歩いて10分、ダッシュで5分かな、ギリギリ間に合いそうだ。この電車を逃せば遅刻確定、絶対に乗らないと。


「6番ホームに、電車が到着します」


 何とか間に合ってホッとする。高校選びを見事に失敗した藤原湊月ふじわらみつき16歳は電車で約二時間かけて県立の高校へ通う。この長い長い通勤時間は、テスト期間は勉強。他の時期には空想に充てている。今日は、久しぶりにおばあちゃんの夢を見た。おばあちゃんとの会話はいつもファンタジーのようで面白かったっけ。


「どうして虹がかかるか、湊月は知ってるかい? 」


「虹? どうして? 虹がかかるにも理由があるの ?」


「そうよ、湊月は虹の根元に行ったことがある ?」


「ううん、行こうとしても虹は消えちゃってた !」


「虹はね、お迎えの橋なの天からのね。天へ上がるべきときに虹がかかってあがるべき人のみ虹の根元へ行けるっていう仕組み」


「へえ、なんだが難しいね。虹が橋ってことはわかった」


「そうね、きっといずれ湊月にもわかる日がくるわ」


 これが、おばあちゃんと最後に交した会話だった。

 おばあちゃんはなんとなく自分が死ぬのをわかっていたのかなと今では思う。おばあちゃんがなくなる前夜私だけを部屋に呼んで話してくれたことだから。

 でも、いま思えば信じられない話よね。虹が橋だなんてしかもそれが天へ繋がってるなんて。なんとも信じ難い話だ。それでも、空想癖がある私はおばあちゃんを信じて虹を見つけると根元へかけだしてしまう。きっと嘘だと分かっていても、現実だけを生きていくのは辛すぎる。希望を持つこと、夢を見ることは誰にも迷惑をかけないはずだ。そして、それだけが今の私にとってあめ玉のような小さな幸せなのだから。

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